10話 他人の夢を笑うヤツは死んだ方がいい
「なんだよ、その笑い話って」
気になって僕は2人の会話に口を挟む。
ミルミルは豪快に笑って答える。
「召喚術士は百年に一人ぐらい生まれる、
魔力も高い珍しい職業らしい。
だが誰もその存在に気付かない。
何故だと思う?」
ニヤつき顔で見下ろす赤い目が憎たらしい。
「わからん」
僕は正直に答える。
ミルミルのニヤつきが最高潮になる。
「喰われるんだよ、
最初に呼び出した召喚獣にな!」
バカだバカだ、と女2人は腹を抱えて笑う。
この世界の人間の笑いの沸点がよくわからないが、話を聞いて自分の中でいくつかの事柄で合点がいく。
不幸にも召喚術の魔法を持ってしまった召喚術士は。
自分が喰われないよう予め召喚者に声をかけた。
僕とコンタクトしたように。
で面談というか勧誘に成功したら、こっちで生活できるよう色々教える。
つまり言語能力がある知能の高い生物限定で戦闘能力は二の次になるよね。
僕のように戦闘能力皆無の者はどうしたらいいんだ?
その辺全然考えてないだろう、召喚術士。
いやそれよりもこの世界の詳細を教えるってことは…。
「それで。
その紙に元の世界の帰り方は書いてあるんか?」
その紙には召喚の仕方、
『一塊の肉を召喚紙に置いて魔力を注げ』
としか書かれていなかった。
召喚術士はどうやら最初から元の世界に帰す気は無いらしい。
帰りたいかと聞かれれば…微妙。
地下鉄で刃物を振り回した人間にどんな未来が待っているか容易に想像がつく。
法に守られ法に裁かれる我が故郷。
この暴力至上主義の世界より元の世界の法治国家の方が安全に暮らしていけるのはわかっているけど。
身体の小さな僕はすぐにお腹が一杯になって。
マリちゃんの太ももの上でくつろいでいる。
マリちゃんが3つのヒーターの中身を今食べ終えた。
よく食べるコだなあ。
「かわいい、かわいい。
いい子いい子、ダルマちゃんはいい子」
スプーンを置くとマリちゃんが僕を一生懸命優しく撫でる。
ああああああ。
気持ちええええ。
人に撫でられるのはこんなに気持ちいいのか!
イヌが人に甘える気持ちがすごくわかる!!
僕もめっちゃ甘えようっ。
「にゃ~ん」
「かわいい、かわいい」
「キモッ!
この欲情イヌ、ニャーとか鳴いてるし身体をくねらせているし!
悪い事は言わないからさっさと捨てた方がいいわよっ」
「かわいい、かわいい」
ミサキのツッコミに構わず可愛く甘える僕を撫で続けるマリちゃん。
「…このコ、本当に変態イヌを気に入ったみたいね」
「イヌじゃない、獅子族だ。
そして欲情してないし発情期じゃないし!
人間でも性欲の強い奴は年中発情してんだろっ!!
動物全体で見ればそっちの方が気持ち悪いわっ」
「うっさいうっさいうっさい、キモチ悪いから私に話かけないでっ!」
「かわいい、かわいい」
ヒートアップした僕たちに構わず、静かに熱心に僕を撫でるマリちゃん。
その様子に上がった熱が急に冷めていく。
ミサキも同じで、白けた顔をして振り上げた手を徐々に下ろす。
「…ねえ。
そんなに気に入ったならそのイヌ、マリーちゃんにあげるわ」
「ありがとうございます」
「いいのよ、
噂通り召喚獣は言う事聞かないし、役立たずだし」
黙って僕達のやりとりを聞いてたミルミルが口を挟む。
「マリー、
このダルマがかわいいと思うのか」
「うん」
ええコや。
とりあえず譲渡が済んだし、このコの庇護の下に入れば他の2人に殺されないで済みそうだ。
「そうか………」
そう呟くとマリちゃんを見つめたまま固まる。
なにか考えている様子。
「おい。
みんな今日は早く寝るぞ。
夜中には面白いもんが見れるかもな」
ニヤリと笑いミルミルはそう告げると、魔使石ヒーターを片付け始める。
「面白いものって…
あら?
まだヒーターに入ってる肉は出さないの?」
「このまま水気を飛ばして干物にする。
マリーはとにかくよく食べるんだよ。
ってかお前らも片付け手伝えや!」
ミルミルが片づけをしながら話を続ける。
「マリーの住んでた町は盗賊に襲われて、
コイツは賊に槍で串刺しにされた。」
その話はマリちゃんに聞いたけど、まさかの串刺し!?
ミサキは初耳で。
「んな!?
串刺しで生きていられるワケないじゃないっっ!」
当然、突然の重い話に驚く。
「奇跡的に、
本当に奇跡的に一命を取り留めたけどな。」
「奇跡的すぎるわよ!」
「その代償か知らんが
記憶も心も失くしたんだ」
「心を失くした…
確かにボンヤリしてるコだと思ったけど」
ニブい女、ミサキ。
「このイヌをかわいいと思う心はあるじゃない?」
ミサキの言葉にミルミルはニッと笑う。
「だから心が戻ったんだ、
少しだけな…
このオッサンイヌがきっかけなのはイラだたしいけどな」
ベッドに上がり髪に櫛を入れてとき始めたミサキが聞く。
「アンタたち、どういう関係?
姉妹でもなさそうだし、まさか親子とか?」
「獣人だからって7歳で子供を産めねーよ!
俺はマリーの住んでた街の傭兵で、街の人間はほぼ全滅。
寝たきりのコイツの世話をしているうちに俺が引き取る事になった…
てか片付けを手伝え!」
ミサキはマリちゃんを引き寄せ、ポニーテールを解いて櫛をいれる。
ミルミルは文句を言いながらも片づけを続ける。
意外と世話好きらしい。
「こんな可愛い顔してキレイな髪してるのに苦労したのねー。
…私の家はお金持ちの商家でね。
でも私は庶子だから台所が寝床。
大好きだった母の遺品はあのカバンだけ」
「はっ、
何だよ不幸自慢大会でもするのか」
「違うわよっ!
こうして一緒にいるんだからお互いの素性は知っておいた方がいいでしょ」
「なるほど。
じゃあついでに聞くがこのテントはどうしたんだ?
ここに住んでいるのか?」
「そんなわけないでしょー」
「ああ、
よくわからんがこれがお前の魔法なんだな」
「ふっふーん、
他人の魔法を聞くのは礼儀知らずって知らないの?
この田舎者」
ミサキが突然ベッドの上に立ちあがり櫛を高々と掲げる。
「世の中はお金、旅をするにも自由になるのもお金!
私は魔法を駆使して商人達の頂点に立って女王として君臨するのよ!」
「あはははは、
また女王かよ、ダッセーの!」
他人の夢を笑うヤツは死んだ方がいいクズだと思う。
そうだ、僕は死んだ方がいい程性格が悪い。
「うっさい、薄情イヌ!
お前の素性は元ハゲたおっさんのクセにっ」
「あー、じゃあもうそれでいいよ。
それより…」
マリちゃんの方に振り返る。
僕を撫でる手がさっきから止まっている。
「ここまでだな。
もう姫様が限界らしい」
マリちゃんがベッドに腰掛けながら船を漕いでいる。
ヒーターやサイドテーブルを端に寄せて床にスペースをつくると。
そこにミルミルがゴロリと横になった。
「俺は床で寝る。
お前らはベッドで寝ろ。
さすがに三人で寝るのは狭いだろ」
「むー…
おやすみ…なさ…ミルミルちゃ…」
マリちゃんは無意識半分でつぶやくと、僕を抱えたまま横になった。
「え、ちょっちょっと!」
ミサキが狼狽えている間に、2人は寝息をたてはじめた。
早っ!
「早っ!」
ミサキと同じツッコミをした自分がちょっと嫌になるが、尋常ではない寝つきの良さにそう言わざるをえない。
「ところで『ミルミル』って何よ?」
本当にニブい女、ミサキ。
「”ミルドレイズ”は呼びにくいからそう呼んでるって。
マリちゃんが」
「あはははっ
子供らしい発想ね。
本人の見た目とギャップがあって面白いじゃない!
明日から私もそう呼ぼうかしら」
ミサキはそんな事を言いながらマリさんにシーツをかけて、少女を抱くように横になった。
「ああ、なんかこのコ甘い良い匂いするわね。
こうしていると落ち着くわ。
昼間あった事が嘘みたい…」
ミサキもすぐに寝息をたてはじめて。
ミルミルの言う『面白いもん』が気になったが、疲れが一気に押し寄せてきて瞼が重くなる。
今日は色々ありすぎた。
この半生の中で一番忙しい一日だった。
ていうか二度目の人生の初日だけど。
泣いて怒って殴られて殺されかけて。
今日を振り返るうちに眠りの深い淵へと落ちていく。
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