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学園生活への下見

「よし 着いたぞ ここが、夏休み明けから、あかりも通う。我が『日桜にちおう学園』だ」

「うおぉー 大きい!! 」


 って、お前のパパ上が作った学園だろーが

 正門から校舎を見上げる、あかりの目は爛々と輝いていた。

 今日は、あと10日程であかりも通う日桜学園の下見に2人でやって来たのだ。


 中学から大学まで一貫である日桜学園の校舎は中等部と高等部は同じ敷地内にあり ガラス張りの4階建てで同じような形式の校舎が並んでおり、その中は廊下で繋がっている。

 そこでは900名近い生徒が日々学んでいるのだ。

 ここに通う生徒は比較的富裕層な世帯が多いが、校風はまさに『自由』と言った感じで校則らしい校則がない。高等部は私服通学もOKだし、髪を染めててもピアスや化粧をしててもOKだ。俺は毎日違う服を着るのも面倒なので、一応は指定の制服を来ている事が多い。


 正門は警備がしっかりしていて、関係者以外は立入が簡単に出来ない上に、休日に校舎の中へ入る際は、校舎のすぐ外にある警備室で、生徒手帳を見せた上、所定の紙に名前と所属クラス、入園時間に入園理由を記載しなければならない。


 正門でも生徒手帳を見せ、校舎前の警備室に辿り着き、ガラス越しに声をかける。


「すみません 入りたいんで用紙下さい」

「あれ? 君、昨日も来てたよね? 」

「まぁ 色々とあるんすよ」


 愛想笑いでごまかし、必要事項を埋めて、付き添い欄には、あかりの名前を書いて提出した。


「よし これで中に入れる」

「凄いねー ホテルみたい」


 エントランスに足を踏み入れると、中は吹き抜けになっていて、テーブルやソファが置いてあり、休憩時間や放課後にもなると、多くの生徒で賑わうのだ。

 もちろんエレベーターも完備してあるが、螺旋階段もついている上にデカデカとシャンデリアがぶら下がっているので、あかりが言うようにホテルみたいである。


「同じクラスだから問題ないと思うけど、放課後に待ち合わせる際はここを利用すれば良い」

「あかりにも友だち出来るかなぁ」


 ソファに腰を下ろすと不安そうに呟いた、あかりの頭をポンポンとやんわりはたいた。


「出来るだろ。現に俺がいるし」

「友だちとも違うんだなぁ。陽太は、か 彼氏……彼氏って何か恥ずかしいね。『彼ピ』にしよう、陽太は友だちじゃなくて『彼ピ』だからさ」

「止めてくれ! 『彼ピ』の方が恥ずかしいわ」


 あかりの頭を強めにポンポンとはたくと、小さい両手で頭を押さえ恨めしそうに見上げてきた。


「え~ あかりの事も『かのぴょ』で呼んで良いからさぁ」


 彼ピに対義語ってあったの? 死んでも言いたくねーわ


「呼ばねーから。教室に行ってみるぞ」

「ハイ 教室に行くぴょ」


 右手を真っ直ぐに上げると、あかりは勢いよく立ち上がった。

 こんなんで高校生としてやっていけるかなぁ


「雑な設定でキャラクター作らなくて良いから、語尾に『ぴょ』付ける高校生なんていねーぞ」

「むぅ~ 《《ノリが悪い》》ぴょ」

「その言葉に手を加えて返すわ。お前のは《《悪ノリ》》だ」



 エントランスを抜けると靴箱になっており、自分の上履きを履いた。上履きも自由で良いので俺のはクロッ⚪️スだ


「あかりはまだ上履きないから来賓用スリッパで良いだろ」

「スリッパやだー 可愛い上履きが良いなぁ」

「今はないからしゃーないだろ」


 頬を膨らませながらスリッパを履くと、あかりは俺の靴箱を覗いてきた。


「おぉ ここで胸キュンな事が起こるんだー」

「お前さ。前から何気に少女漫画とか好きだったけど、そうそう胸キュンなんて起こらねーから」

「ふっふっふ 陽太。起こらなければ起こせば良い」


 そう言うとあかりは一人芝居を始めてきた


「先輩の靴箱は……っとここだ! ひゃん 先輩の下駄箱にもうこんなに沢山のラブレターが えいっ こいつらのラブレター何て捨てて私のだけにしてやる」

「おもっくそ腹黒いな! 」

「他の男子生徒の靴箱に入れなかっただけマシじゃん」

「鬼畜の所業だよ! ただ、残念ながら先輩の靴が、尋常じゃない位に臭かったらどうする? 」

「せ 先輩はそんな臭くない。いつだってスウィートフローラルの甘く透明感のある香りなんだ」

「足からそんな匂い出してくる男子高校生がいたら、それはそれでこえーよ」


 あかりのボキャブラリーが完全に増えている。おそらく映画やアニメに漫喫といったデートを俺としている影響もあるのだろう。俺って悪影響かな……


 靴箱で履き替えエレベーターに乗り込み3階ボタンを押す。


「ここでの胸キュンは……エレベーターが突然止まっちゃって、不安な所に気になるアイツが『俺がいるから大丈夫ぴょ』って言ってくるんだ」

「『ぴょ』言ってくるアイツは確かに気になる! 」


『ぴょ』って何だよ? これだけ『ぴょ』って聞かされると、だんだんと有りに思えてくるぴょ……


「着いた。ここの右端が俺らのクラス2-1だ」


 エレベーターから降りると、あかりはダッシュで右端へと向かい出した。

 高校生で廊下をダッシュする奴もなかなかいねーよ


 ドアの前で待機しているあかりが手招きをしてきたので小走りに向かった。


「じゃあ 開けるぞー その前に初めて入る感動をお届けしたいから目を隠すぞ 」

「おぉ その方がワクワクするー」


 あかりの目を後ろから塞ぎ、ゆっくりとドアを開けて教室へと入ると、そのまま教卓の前まで誘導し黒板の方に体を向けた。


「じゃ、1・2の3で両手を取りますので、そしたら目を開けて下さいね」

「分かったー あかりは準備完了なのだー」

「じゃあ 1・2の 3!」



 あかりは瞬きをしたかと思うと呆然と立ち尽くした。


 昨日も俺はここに来ていたのだ。黒板をウェルカムボードとして、あかりが好きなアニメキャラを書いて吹き出しを作り、高校生活を一緒に楽しめる事の喜び等をしたためていた。

 しかも周りには銀テープとかで飾り付けもしておいたからな!


「あかり。日桜学園にようこそ! 一応、あかりの席も決まってて、一番後ろの窓側から2列目」


 本当は背が小さいから一番前に担任はしようとしてたが、俺が窓側の一番後ろで、ひまりが真ん中の列の一番後ろだから、その間にあかりを置く事に決めたらしい。


「ようたー ありがとう びっくりし過ぎて 言葉が出てこなかったよぉ」

「それは時間をかけて昨日、作った甲斐があった。じゃあ席に座ってみなよ」


 早くも涙腺が崩壊しそうなあかりは、自分の席へと座った。

 やっぱ、小せぇな……黒板見えるかな?

 今はあかりしかいないから見えるが、クラスメイトで一杯になったら、教卓からはあかりが見えないかも知れない。

 そん時はあかりを一番前にして、俺もひまりも一番前に変更だな。


「何かここで勉強するんだ。って思うと不思議だねぇ 6年ぶりの教室かぁ」

「すぐに慣れるよ。机の引き出しに手を突っ込んでみなよ」


 あかりはキョトンとしながらも両手を引き出しに突っ込むと、手応えがあったのか、今度は椅子を引き、中を覗き始めた。


「何か一杯入ってるーー」


 引き出しから両手を出すと、次々に箱を取り出していった。

 可愛くラッピングされた箱が4つあかりの机に並んだ。


「これは、俺とひまりからのプレゼント」

「めちゃくちゃ嬉しいよぉ 開けていい? 」

「どうぞ」


 丁寧にラッピングされた箱を開けると、可愛らしいスポーツサンダルが出てきた。


「うちの女子たちは大体がスポーツサンダルだから上履きな」

「可愛い~ 履いていい? 」

「いいけど 早くないか」


 俺が言い終わる前には、あかりはサンダルを履き出した。そして次から次に箱を開けると、筆記用具一式。化粧ポーチ。沢山の駄菓子。バラエティーに富んだプレゼントが出てきた。


「すごーい 色々あるぅ」

「で、これも俺から 何を上げて良いか分からなかったけど」


 サコッシュから小さいラッピングされた箱をあかりに手渡した。

 あかりは丁寧にラッピングされたリボンや紙を開けて小箱から取り出すと


「手帳型だから定期も入れて置けるし、あかりはスマホを良く落としそうだしな」



 女子高生に人気のブランドで、まぁまぁ値の張るスマホケースを俺はプレゼントした。

 両端は淡いイエローで、真ん中はホワイトと、可愛く小さいリボンが付いてあり、あかりの好みだとは何となく感じていた。


「そこに定期も入れて、一緒に学校行こうな」

「陽太! ほんとうにありがとー いっぱいいっぱい嬉しいよぉ ひまりちゃんにもお礼を言わないと」


 椅子から立ち上がり俺に抱き付いてくるあかり。

 そのままあかりの頭を撫でていると、心がチクリとした。今まではひまりと2人で通っていたが、こらからどうなるのだろう?


「陽太 だぁいすき」


 俺が望んでいる3人の関係はこれなのか?

 あかりの無邪気な笑顔に罪悪感を感じ顔を横に向けてしまった。

 向けた方向には窓から野球部が白球を追い、陸上部が何かを叫びながら走っている姿が見えた。


 青春ってなんなんだろ……


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