アンと慰問にきた少年
ここまでで今日は終わりにしましょうか。とシスターが授業の終わりを告げ、いつもの日常へと戻っていく。
「アン、洗濯物とりにいこ?」
「そうね。沢山あるもの、早くしなくちゃ。」
サリアと2人でたわいない会話をしながら、教会の横にある庭へと向かう。
「皆さん、少し集まってくださいな。」
授業を終えたばかりなのになぜ?と疑問に思いながらも子供たちが部屋へと戻っていく。
その後ろをアンとサリアも続き、部屋へと入った。
「何だろうね。」
「新しい家族かもしれないぞ」
「嬉しいわ」
「静かにしてくださいね。」
みんなが口々にいろいろなことを話す、それをシスターの穏やかな声が止めた。
途端に部屋に静寂が戻ってくる。
「今日は慰問に訪れて下さった方がいるのよ。」
どうぞ。とシスターが告げる声の後に小さな音を立て扉が開く。
「かっこいい」
「騎士様?」
「王子様みたいね」
「英雄かもしれないぞ」
扉から入ってきた2人を見て、また子供たちは騒ぎ立てる。
「こんにちは。私はテオ・ディリーヴァと申します。」
「私はランベルト・ディプラテリーアと申します。」
優しそうな少年に続き、騎士のような格好をした青年も自己紹介をする。
先月、このミーテの街に魔物が現れた。
魔物が現れること自体はそう珍しいことではないが、問題はその数が通常の倍近くいた事だ。
小さな街に多くの兵が駐屯することはまずなく、被害は様々な場所ででた。
教会というのはそういった時の避難所でもあり、また心や身体に傷を負った人が神に救いを求めにくる場所でもある。
実際、先月怪我を負った人の何人かはまだ教会内で保護しているし、その人達の世話をするのがアンジェリカ達の仕事の1つにもなっている。
彼らはその慰問に来たという。
(.......有難いことだわ。)
彼らのような人は慰問という形をとり物資や金銭の援助をしてくれるのだ。
教会は表立ってお金を稼ぐことを良しとはしていないため、こういった善意は有難い。
特に災害の後には。
だからこそ感謝してほしいと、そして善行が人を救うことを学んでほしいとシスターは思ったのだろう。
災害は神から与えられた試練だけではないのだと、そう伝えたくて。
教会で暮らす孤児の中でも年長者の何人かはシスターの意思を汲み取り、感謝を述べる。
それに習ったように、下の子たちにも「ありがとう」「ありがとう」と感謝の言葉が広がっていく。
「いいえ。少しでも助けになれば嬉しく思います。」
何か他に手伝えることはありませんか?とテオと名乗っていた少年が微笑む。
「でしたら、怪我をなさっている方のお部屋に飾るお花をつんでいただけますか?」
「もちろんです。宜しければ、お花をいけるところまで私にお手伝いさせてください。」
「あら、ありがとうございます。」
皆さん、それではお仕事に戻ってくださいな。とシスターが告げ、それぞれ今日の持ち場へと戻っていく。
お花をいける当番のナタリーとシルビアがその場に残り、2人を案内するようだ。
「ふふ、2人とも緊張してるわ」
「そうね、慰問に来てくださった方だもの」
「違うよ、アン。ばかね。見て、あんなに綺麗なお顔だもの。」
アンとサリアは2人の緊張する様子を横目に見ながら、足早に庭へと戻っていった。