孤児のアンジェリカ
セラータ国。
豊かな自然と1年を通して穏やかな気候に恵まれたこの国は隣国との諍いもあまりない。
民にとって過ごしやすい国だ。
格差は未だ残るものの、全ての民に等しく人権が認められ守られている。
人権についての法案は、何代か前の王が確立したがその当時の社会は大きく混乱したという。
特に高位貴族や政府の重鎮などは反対を強く主張していたとか。
しかし王は頑として譲らず、国民に是非を問うという異例の方法をとってまで、この法案を推し進めた。
結果としては、良い法案だったのだと思う。
少なくともアンジェリカのような孤児は虐げられることの多い立場だったと聞く。
今は目立ってそういったことをする人々は少なくなったのだから、有難いことだ。
「聞いてますか?アンジェリカ。」
「い、いいえ!ごめんなさい、シスター」
聞いていなかったのは事実だからと、素直に謝るとシスターは困り顔で笑う。
等しく人権を認められているが故に、孤児達が集まり暮らすこの教会でも週に1度勉強の機会が与えられる。
「私たちは学ぶ機会を与えられているのです。感謝し、励まねばなりませんよ。」
「はい。シスター」
優しく諭すシスターの言葉をきき、アンジェリカは頷き返事をかえす。
この勉強が果たして今後の役にたつのだろうかとよく考える。
人権は確かに等しく与えられている、そして教育の機会も。
しかしそれだけだ。
役人になるには推薦人が必要というし、爵位をもつ家庭に産まれた人とはやはり生きる道が違うのだ。
選択肢が限られていると言えるのかもしれない。
とは言っても、実際爵位をもつ家に産まれたとしても女であればどこかへ嫁ぐのが一般的だからそちらもある意味では選択肢を与えられているとは言えないが。
(それでもせっかく機会があるのだもの。学ばねば損、よね。)
アンジェリカはペンをとると、シスターの声に集中した。