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第8話

「父さん……」


 状況から親父がルーシャを背後から刺したのは明らかだった。


「ハリ……」


「父さん、ルーシャを殺したのか!?」


「いや、まだ死んではいないようだ」


 親父の足元を見ると、ルーシャはまだ動いていた。だが、彼女の倒れているところには大きな血だまりが出来ている。


「事前にかけた回復魔法で即死を免れたか。恐ろしいほどの傷の回復力だな、小娘。それもハリから魔力を吸い上げて行っているのだろう?」


 親父が剣をルーシャに剣を突きつける。

 とどめを刺す気だ。


「やめてくれ! 父さん、なんでそこまでするんだ!?」


「お前が分かる必要はない」


「ふざけんな! シャインディスペル!」


 もう一度、唱えてみる。

 すると、体の自由が利くようになった。

 2回かけたことで親父のダークバインドの効果を完全に打ち消したらしい。

 

「ハリ!」


「ファイアーボール!」


 親父に向けて炎の玉を放つ。

 だが、剣で軽く防がれてしまう。

 そうなることは分かっていた。


「ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール!」


 気にせず連射する。

 

「ハリ、いい加減にしないか!」


 親父が突然姿を消した。

 直後、背後になんの前触れもなく現れる気配。


「ぐっ!」


 振り返りざまに顔を殴られる。

 俺は仰向けに倒れた。


 その時。


「ダークバインド!」


 ルーシャの声。


「うっ!」


 一瞬、親父の動きが止まった。

 だが、どうやったのかダークバインドをすぐさま打ち破る。

 しかし。


「ダークテレポーテーション!」


 間髪入れないルーシャの魔法発動。親父は黒い闇に飲まれたかと思うと跡形もなく消え去った。


「ルーシャ! 大丈夫?」


 俺はルーシャのもとに駆け寄った。

 ひどい傷だが、目に見えて塞がってきていた。


「大丈夫です、ハリさんの膨大な魔力がある条件下でのダークリジェネレーションの効果で急激に傷は癒えています」


「よかった。で、父さんは?」


「ダークバインドで一瞬動きを封じて、それからダークテレポーテーションでできるだけ遠くにとばしました。攻撃魔法では発動に時間がかかるので、瞬間に発動する転移魔法を使うしかありませんでした」


「じゃあ父さんは生きてるんだな?」


「はい、恐らく。さっきのわたしの攻撃魔法で無傷のお方が転移魔法でどうにかなるなんて考えられません」


「そっか」


 俺はほっとした。

 

 

 彼女の傷が癒えてから。


「これから俺はどうしようかな……?」


「どういうわけがあれ、お父様はハリさんに強くなってもらいたくないようです。ハリさんは強くなりたいんですよね? そんな方のところにいても強くはなれないんじゃないですか?」


 彼女の言うことはもっともだった。

 父親といるより、ルーシャといたほうが強くはなれそうだ。

 だが。


「でも、ルーシャ。君に訊きたいことがある」


「なんですか?」


「君は何者なんだ? 父さんが現れる直前に補助魔法を重ねがけしたり、あんな強力な攻撃魔法を使ったり」


「わたしは少し予知能力があるんです。それでお父様と戦うことが直前に分かったんです。実はハリさんと知り合えたのも、この予知能力のおかげです。それとわたしは自身の魔力はとても少ないのですが、闇魔法の素質はあるんです。それだけです」


「そんなことを訊いてるんじゃない。君の正体はなんなんだ?」


「わたしの正体、ですか……。なら、先にはっきりさせましょう。ハリさんはご自分の正体にお気づきですか?」


「え? なんだよそれ?」


 俺の正体?

 なんの話だ。

 

「わたしはさっきお父様とお話ししていて、ようやく気づきました。ハリさんの正体に」


「俺の正体なんて言われたって。ただの特異体質としか」


 彼女は首を横にふった。


「いいえ、ハリさんの正体は伝説の勇者です、おそらく」


「は?」


 俺が伝説の勇者?

 彼女が何を言っているのか分からなかった。


「お父様はきっとそれを知られることを恐れていたのでしょう。それでハリさんが強くならないようにと、剣の修行だけをさせていたのだと思います」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。全然話が見えないんだが」


 伝説の勇者。

 それは文字通り伝説上の存在だ。

 突出して高い身体能力を持ち、魔法使いや場合によっては賢者すらもしのぐ魔法をも操る。

 ずっと最弱剣士だった俺がその伝説の勇者?

 剣を極めようとしてその剣も極められていない俺が?


「わたしが思うに、お父様はハリさんが伝説の勇者だとバレると命を狙われると思ったのでしょう」


「命を狙われる?」


「だって、魔王を倒せるのは伝説の勇者と言われているのです。誰がその勇者か分かれば、魔王はなんとしても勇者を倒したいでしょうから」


「それで父さんは俺が強くならないように?」


「はい。で、わたしがそのことに気づいてしまったのできっと口封じをしようと思ったのではないかと」


 それでようやく合点がいった。

 父親が執拗に俺から魔法を遠ざけたのも、剣の修行ばかりさせたのも。

 でも、自分が伝説の勇者だなんて実感は全く沸いてこない。

 それはともかく。


「じゃあ、今度はルーシャ、君の正体を教えてくれ」



 

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