第7話
「おい、父さん! 女の子相手に戦うっていうのかよ!?」
俺がルーシャと親父の間に割って入る。
「ハリ、お前は黙っていろ!」
「そんなわけにいくか! この子は、ルーシャは友達なんだ!」
「友達……。お前は騙されているだけだ!」
「何を騙すって言うんだ!? むしろ、騙してたのは父さんじゃないのか!?」
すると、父親は黙った。
「俺が剣の修行をいくらやっても剣が強くならないことを知ってたんだろ!? 魔法の修行をすることで剣が強くなるって知ってたんだろ!? だから、俺の魔法を封じたんじゃないのか!?」
「全てはお前のためだ」
「なに!? どこが? どこが俺のためって言うんだ!? 修行しても修行しても全然強くなれなくて俺を弱っちいままでいさせることが俺のためだとでも言うつもりか!? 俺がどれだけ、どれだけ惨めな思いをしてきたと思ってるんだ!? そんな思いをさせることが俺のためだなんて全然わかんねえよ!」
これまで父親の言う通りにいくらやっても強くなれなかったことへの不満が一気に爆発した。
「分からなくてかまわない。それより私はそこの小娘に用がある。お前はそこでおとなしくしていろ! ダークバインド!」
途端に俺は体の自由を失う。
「父さん!!」
だが、親父は俺のことなど無視して続ける。
「小娘よ、我が子に近づいて、何のつもりだ?」
すると、ルーシャは妖しく笑う。
赤い瞳を輝かせて。
それは俺がはじめて見る顔だった。
「ハリさんのお父様、はじめまして。わたしはルーシャと申します。以後お見知りおきを」
「挨拶はいい。貴様の目的はなんだ?」
「お父様のほうこそ、いったいどうしてハリ様にうまくもならない剣の修行ばかりさせていたのですか? これほどの才能を秘めた方にはあまりに酷いのではないですか?」
「お前には関係のないことだ」
すると、ルーシャは納得したように頷いた。
「今分かりました。お父様はそこまでお隠しになりたかったのですね? ハリさんが何者であるのかを」
「貴様! 死ぬ覚悟はよいか?」
親父は剣を構える。
「父さん、やめろ! シャインディスペル!」
だが、ダークバインドは消えない。
「自分でダークサイレントを解いたようだな。だが、先日かけて少し時間が経っていたダークサイレントはどうにかできても、今かけたばかりのダークバインドは消せないらしいな」
くっ!
俺の光魔法の実力がまだ不足しているということなのだろう。
このままだとルーシャが親父にやられかねない。
「小娘よ」
「なんでしょう、お父様?」
「事前に補助魔法を重ねがけしているようだな。ということは私と戦うことを予知していたのか。貴様、何者だ?」
「何者でもいいではないですか? それを問う権利がお父様におありですか? ハリさんが何者かを隠してきたというのに」
「死にたいらしいな」
先に仕掛けたのは親父だった。
片手で見えないほど速く剣を振るう。
カーン!
金属と金属がぶつかり合うような音がした。
一瞬遅れて父親の繰り出した剣の衝撃波がルーシャのかけた魔法によって防がれたのだと分かった。
「ほう、今の剣撃を防ぐとはな。相当な闇魔法の使い手とみた」
「お父様にお褒めいただき光栄です」
ルーシャがぞっとするような微笑みを浮かべる。
俺が感じられるほどの殺気を親父は放っている。
「親父、やめてくれ! ルーシャは友達なんだ!」
「ハリ、この者は友などではない。お前を破滅に導く存在だ。ここで始末する。文句は後からいくらでも聞く」
「よせっ!」
「小娘よ、我が一撃を防いだからとて、調子に乗るな。我が剣撃は無限だ」
親父は本気だ。
「ルーシャ! 逃げてくれ!」
「わたしはハリさんの側を離れません! ハリさんのお父様がそれをお許しにならないというなら力ずくで分かっていただきます!」
「やめろ! 父さんに勝てるわけないだろ!? 父さんは剣聖なんだぞ!?」
「ダークブレイズ!」
彼女が魔法名を唱えると、指先から黒い炎がほとばしり、親父に襲いかかる。
だが、親父が剣で一薙ぎすると霧散する炎。
「こんなもので私は倒せん!」
「そのようですね。では、仕方ありません。申し訳ありません、ハリさん。わたしに力をお貸しください」
「えっ?」
突然、心臓をわしづかみされたかのような痛みが胸に走った。
思わず膝をつく。
「貴様!! ハリから魔力を奪ったのか!?」
「ダークエクスプロージョン!」
彼女が言い放つと、地面が揺れだす。
黒い闇が親父の周囲に満ち始める。
そして、闇が収束したかと思うと。
爆発した。
気がつくと、親父のいた場所を中心にクレーターのような穴が開いていた。
親父は跡形もなく消えていた。
意識が鮮明になってきて、状況が飲み込めてきた俺は。
「父さん! 父さん!」
振り返ると、そこにはルーシャが立っていた。
「ルーシャ! 父さんは!? 父さんは!?」
「お父様は恐ろしく強い人ですから、わたしが使える最強の魔法を使わせていただきました」
「じゃあ、父さんは!?」
「手加減をしていたら、わたしは確実にやられていました。申し訳ありません」
「父さんを! 父さんを殺したのか!?」
俺は叫んでいた。
怒りが俺を突き動かす。
ルーシャが赦せない俺は彼女に向かっていった。
だが。
「ぐっ!」
突然、低い彼女の声。
見ると、ルーシャの胸から剣が生えていた。
吐血して倒れる彼女。
その後ろには親父が無傷で立っていた。