第6話
「もし、剣の修行で魔法が強くなるんなら、光の魔法だってもっと強くなってるはずなんだ」
「確かに。でも、剣と火の魔法が対応しているなら、光の魔法は何と対応しているんでしょう?」
「何か新たにやったことあったかな? 俺は剣と火の魔法くらいしか使ってなかった。でも、光の魔法が少しは使えるようになったってことは何か他のことをやったはずなんだ……」
そこで俺はあることに思い当たる。
だが、本当にあり得るだろうか。
試すしかない。
俺は街でショートソードを買うと、早速試す。
「二刀流ですか」
「そうだ、それくらいしか何か新しいことをしたってのが思い付かない」
そう言いながら、俺は目の前のゴブリン一匹と二刀流で戦う。
恐ろしく戦いにくいが腕力に物を言わせてなんとか勝利をものにする。
「この二刀流をしばらく鍛えてみる」
「それでシャインライトが明るくなれば!」
「当たりってことだ!」
そして、2週間ほど俺は二刀流で戦い続けた。非常にやりにくいが右手と左手をバランスよく使うように心がける。
効率のよさを考えてゴブリンではなく、スライムを狩り続けた。
そして、試してみる。
「シャインライト!」
先日までは手のひらの上で一瞬火花が散るだけだった俺のシャインライトは小さな光の玉に成長していた。
「やっぱりな。二刀流が光の魔法と対応していた!」
「ハリさん、素晴らしいです!」
「けどさ、やっぱ火属性の魔法が使えないと片手剣は強くなれないんだよな……。付け焼き刃に二刀流をやったところでリメラに勝てるとは思えないし」
なんか気落ちしはじめる俺。
そこでルーシャがなにかに気づいたようだ。
「ハリさん、ひょっとしたらなんとかなるかもしれませんよ」
「え、どういうことだ?」
「ハリさんは闇属性のダークサイレントによって火の魔法を封じられていますが、光の魔法なら闇の魔法のダークサイレントの効力を打ち消すことができるかもしれません」
「それは本当か!?」
「はい、元々光の魔法というのは特に闇の魔法を防いだり、その効果を無効化することができるのが特徴ですから。でも、シャインライトじゃさすがにダークサイレントを打ち消すことはできないでしょうけど」
「じゃあ、新しい魔法を覚える必要があるのか……。でも街にはシャインライトの魔道書しかなかったしな」
「隣街に行ってみましょう!」
こうして俺たちは隣街のトウォに行くことになった。
トウォは俺のうまれ育ったオネの街よりずっと大きい街だ。
魔道書の店もやたらと広く品揃えも良さそうだった。
店主のおっさんにルーシャが二人で話している。
「ダークサイレントを打ち消すことができる光魔法?」
「はい、そういうものはありませんか?」
「光の魔法が使えるのかい、お姉ちゃん?」
「いえ、わたしではなく連れの彼です」
「それならこれがある」
「これは?」
「シャインディスペルの魔道書だ。これなら闇魔法の効力を打ち消すことができるはず」
「ありがとうございます!」
「ただ」
「ただ?」
「光の魔法が闇の魔法の効果を無力化する力に優れているとはいえ、たとえばダークサイレントをかけてきた術者の魔力のほうがあんたより上だったら効果を打ち消すことはできないかもしれないよ」
「つまり、親父より俺のほうが魔力が高くないとうまくいかないと……」
「そういうことみたいですね……理にはかなってます」
「親父は魔力高いんだろうか? 身体能力は化け物じみているけど。でも考えていても仕方ないな、とりあえずシャインディスペルの魔道書を読破だ」
そして、シャインディスペルの書を読み始める俺。だが。
「なんだこれ? めちゃくちゃ難しいぞ」
早くも心折れそうになるほど難解だった。
「俺の光魔法の実力がまだまだ未熟だからだろうな。1ページ読むのにも苦労する。これじゃいつになったら読み終わるか分かったもんじゃない」
「シャインディスペルはシャインライトより高位の魔法なのでしょうね」
「こうなったら」
「こうなったら?」
「二刀流を鍛えて光魔法の実力をあげながら、魔道書を読むしかないな。でも、二刀流で倒せるのはいまだスライムくらい。すげえモチベーションが上がらないんだよな」
とそこで気づく。
「いや、二刀流の修行とシャインライトの訓練を交互にやれば、どっちも伸びていくな。頭悪いな俺、なんで気づかないんだ」
「なるほど、そのほうが効率よさそうですね」
「何の修行するにもあまりに苦痛だと集中もできないし、成果も上がらない気がするからな。やっぱり明らかに成果が上がりながらじゃないと」
そういうわけで、俺は二刀流でスライムと戦い、それ以外の時間はできるだけシャインライトを唱え、合間の時間に魔道書を読んだ。
1週間後。ようやくシャインディスペルの書を読み終えた。
途中から読むスピードが上がり、最初ほどの苦痛は感じなくなった。
「じゃあ、やってみるぜ。光の精霊よ、汝の力で禍々しき闇の力を祓いたまえ、シャインディスペル!」
すると、俺の体をまばゆい光が包み込む。
そして、静かに光は消えていった。
「効いた、のか?」
「早速、試してみましょう! ファイアーボールを!」
ルーシャに言われるまま、俺はファイアーボールを使ってみる。
すると、手のひらに熱くなり、力がみなぎったかと思うと、火の玉が出現した。
「やった!」
「やりましたね!」
火の玉が消えたあと、俺とルーシャはハイタッチして喜んだ。
「これで片手剣を鍛えることができますね!」
「ああ、ルーシャ、ありがとう!」
「運命の人のためですもの! これくらいお手伝いするのは当然です!」
運命の人と言われる度に愛が重く感じるが、彼女の協力なしでここまで来れなかったのも事実だ。友達以上に発展することはないにしても友達としては感謝すべきだろう。
まだ、街へは距離がある帰り道の途中で。
ルーシャは突然立ち止まった。
「どうした?」
だが、彼女は俺の問いに答えることなく。
「ダークパワー! ダークアーマー! ダークスピード! ダークウォール! ダークリジェネレーション! ダーク……」
連続で魔法名を唱え始めた。
全て呪文詠唱を省略している。
そして、全て自分にかけている。魔法名から自分の能力を引き上げるような補助魔法であること、闇魔法であることは容易に想像がついた。
「ルーシャ!?」
俺が驚いていると。
「もう、これ以上看過することはできん!」
聞き慣れた声だ。
街のほうから親父が現れた。
親父は剣を抜き放つと、ルーシャのほうに剣先を向ける。
「小娘、覚悟はいいな!」