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第5話

「光の魔法!?」


「はい、ダークサイレントは一度に一系統の魔法しか封じることができないので、光の魔法までは封じられなかったのでしょう」


「どうしてそんなのが使えるようになったんだろう!? この前までは使えなかったのに……」


「それは分かりません。でも元気を出してください! 魔法が使えるなら!」 


「そうだな、魔法が使えるなら剣の腕は上達する!」


 俺は一気に元気になった。

 だが。


「こんな微かな光具合じゃ、光の魔法はそんなに才能がありそうじゃないな……。そもそも使える魔法があるんだろうか?」


「光の魔法自体、使える人は限られています。とりあえず光の属性魔法で一番簡単な魔法を覚えるのがいいかと」


「光属性で一番簡単な魔法ってどんなだ?」


「シャインライトだと思います。洞窟とか暗闇で周りを照らす魔法ですね」


「地味だな……。っていうか俺、火属性魔法を封印されてしまったから戦力としてはあまり役に立てないんじゃ……」


「いえ、前にも言いましたが、ハリさんがいてくれるだけでわたしは魔法が使えるようになるのでそれだけでも助かります」


「それ、あんまり役立ててる実感がなくてだな」


「何を言ってるんですか!? それこそハリさんがわたしの運命の人たる所以じゃないですか!」


 

 俺たちは街に戻ると、魔道書を買いに行った。

 光属性の魔道書というのは貴重らしくシャインライトの書1冊しか見つからなかった。

 そして、ルーシャとともに魔道書の店から出てきたときだ。

 

「久しぶりね、ハリ。こんなところで会うなんて」

 

 リメラと鉢合わせた。


「リメラ……」


「あたしに告白したわりにはその後、全く姿を見せないから、てっきり剣の修行に打ち込んでるのかと思ったけれど違うんだ。そんな美人な魔法使いさんと一緒にお買い物なんて」


「いや、そういうわけじゃなくて……」


「あたしのことはもう諦めて、この魔法使いさんとよろしくやってるってわけ? いくらあたしに勝てそうにないからって諦めるの早くない?」


 この上なくリメラは不機嫌だった。


「だから、違うって」


 すると、ルーシャが割って入る。


「この方がハリさんがお好きだというリメラさんですか? こんにちは、はじめまして。わたしはルーシャと言います。リメラさん、よろしくお願いしますね」


「これはご丁寧にどうも、ルーシャさん。ハリのこと、よろしくね」


「はい、お任せください。ハリさんはわたしの運命の人ですから」


 その時のルーシャを睨みつけたリメラの表情は鬼のようだった。


「ハリ、あたしはいつでも相手になるから。でも、1000年後とかに来られてもあたし、さすがに生きてないからね。じゃあ」


 そう言い残すと去っていった。


「なんですか、あの感じの悪い人! あんな人がお好きなんですか、ハリさん!?」


「あんなリメラ、初めて見たよ。いつもと全然違う。でも、ああいうリメラも素敵だ」


「恋は盲目ですね……」



 俺とルーシャは木陰で涼んでいた。

 

「ああ、難しい」


 俺はシャインライトの書と格闘していた。

 魔法文字それ自体は読める。

 だけど、言い回しが古臭かったり、内容が難解だったりでとてもスラスラとはいかなかった。 


「これ、辺りを明るく照らすだけの魔法だろ? なんでこんな難しいんだ。これがあまり才能がないってことか……」


「火属性の魔法のときは、そもそも魔法自体ご存知だったようですから。初めて魔法を覚えるときはそれくらい大変なのが普通ですよ」


「仕方ない、頑張るか」


 結局、読み終わるのにその日1日を費やし、実践的な練習は次の日にすることになった。


 俺は父親が赦せなかった。

 どう考えてもここまでされる謂われはないと思った。

 剣の特訓もその日からボイコットした。



「明るいところで練習しても光っているのが分かりにくいと思いますので、ちょっと暗いところでやりましょう」


 ルーシャにそう言われて、俺たちは近くの洞窟で練習することになった。


「光の精霊よ、汝の力で暗闇を明るく照らしたまえ! シャインライト!」


 洞窟に響き渡る俺の声。

 手のひらの中でわずかに煌めいて散る火花。

 それを俺は延々と繰り返していた。

 なんという地味な作業。

 しかも、いくらこのシャインライトの練習をしても、シャインライト自体はうまくならない。ずっとひょろい火花が散るだけで進歩がない。それがとてつもなく苦痛だった。

 ルーシャはそんな俺の側にずっといる。

 

「なあ、ルーシャ?」


「はい、なんですか?」


「退屈じゃね?」


「まあ確かに、ファイアーボムでモンスターを倒すのを見ているのに比べたら退屈ですね。でも、わたしはハリさんのお側にいられるだけで満足なのです」


 と、満面の笑みを浮かべる彼女。

 ちょっとかわいいと思ってしまったことに若干の罪悪感を感じる。

 そう、俺にはリメラという好きな女の子がいるのだ。


「しかし、このシャインライトの訓練をこれから1ヶ月とか続けるのかと思うと気が狂いそうだ。こんなんで剣の腕、上達するんだろうか」


 

 1ヶ月が経過した。

 だが、父親がかけたダークサイレントはいまだに解けずにいた。剣の腕だけでなく、魔法のほうも大したものらしい。父親とはあれ以来、口を利いていない。

 

 そして、俺はコボルト3匹を相手に剣で戦い、この1ヶ月の成果を試してみた。

 その結果。


「上達した気が全くしない……。1ヶ月前となんの変化も感じない」


 そう俺の剣の腕は全く上がらなかったのだ。


「どうしてでしょうか?」


「分からない」


 だが、そうやってしばらく考えているうちに、あることに思い当たる。


「そういや、剣の修行をすることで俺は魔法が得意になったんじゃないよな?」


「え? それってどういう?」


「俺は剣の修行をすることで()()()()()()が得意になったのであって、魔法が得意になったわけじゃないんだ」


 俺はようやく自分の特異体質の本質的なことを理解しつつあった。


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