第4話
「剣の修行をすると魔法が強くなって、魔法の修行をすると剣が強くなる!?」
俺の考えを話すと、ルーシャは当然のごとく驚愕した。
「そうだ。それならこれまでのことにも説明がつく。到底あり得なさそうなことだというのは重々承知だ」
「確かに。それなら剣をいくら修行しても剣の腕が全く上達しないことも納得がいきますね」
「ああ。体力を鍛えれば魔力が上がるんだろう。これまで剣の修行で体力を鍛えてきたはずが、代わりに魔力があがったってことなんだと思う」
「でも多分それだけじゃないと思います」
「ん? どういうことだ?」
「確かに体力を鍛えるためにすごく努力されてきたんだと思います。でも、それだけじゃ説明がつかないほど、ハリさんの魔力は高いです。こうしてわたしと1日何時間も一緒にいても、お疲れになっている様子もありませんし。それにたった1ヶ月で剣の腕も明らかに変わりましたよね? おそらく、剣と魔法の修行の成果がねじれているだけじゃなくて、すごい才能をお持ちなんだと思います! ああ、さすがわたしの運命の人!」
なんかうっとりした表情のルーシャ。
どことなく残念な美人って感じだよな、彼女。
「とりあえず1ヶ月試してみるさ、剣を極めたいなら魔法を極めるつもりで修行したらいいわけだし。ひたすら魔法の修行をする」
それからの俺は本当に魔法の修行に集中した。火属性の魔法もいろんなものが使えることが分かった。炎の壁を作るファイアーウォール、ファイアーボールを雨あられとふらせるファイアーストーム、炎を槍のように尖らせて貫通させるファイアースピア、炎で剣を作り出すファイアーセイバーなど。それらをあらゆる局面で使いこなしながら戦った。
幸い俺の魔力がとても高いというのは本当で、いくら魔法を使っても魔力切れは起きなかった。
相手にするモンスターもゴブリンからコボルトやオークなどに変わっていった。
父親はまだ王都トエンから帰ってきていなかったので、この間も父親との剣の特訓はその間なかった。
あっという間に1ヶ月が経った。
ここで俺は剣の技量が上がっているかを確かめるために、ゴブリン1匹と再び対峙した。
襲って来るゴブリン。だが、その攻撃はまるで羽のように軽かった。以前はこんな相手が倒せなかったのが嘘のようだった。
あまりに戦い甲斐がないので、ゴブリン3匹同時に相手にしたが、それすら楽勝だった。
「やっぱり魔法を使えば使うほど、剣の腕はどんどん上達するなあ」
「思った通りでしたね。それもすごい成長速度です」
「まあ、剣の修行はしてないから魔法の方はなんもうまくなってない気もするが」
この調子ならいつかリメラに追いつける。
俺はそんな自信を持っていった。
「ルーシャ、ちょっと頼みがあるんだけど」
「なんですか?」
「腰に提げてるショートソード貸してくれない?」
「いいですけど、なんに使うんです?」
「二刀流だよ」
俺は修行の成果を確認するのに複数のゴブリンやコボルトと戦うことが多くなっていた。それで二刀流で戦ったほうが有利なのではないかと出来心で思ったのだ。
だが。
これまで右手に剣を持ち、左手は手ぶらだったのが、両手に剣を持っただけとは思えないほど戦いにくさを感じた。
試しにゴブリン1匹と二刀流で戦ってみたが、それでも苦戦した。
技のキレ、スピードが異常なほどに低下したのを感じた。
途中から左手は剣を持ってるだけで、右手だけで戦っていたのにそれでもスムーズに剣を扱えなかった。
手ぶらの手に剣を持っただけでここまで戦いにくくなるものだろうか。
俺は1日だけで二刀流なんてやめてしまった。
そんなことをしているうちに王都から父親が帰ってきたのだった。
父親は帰ってくるなり、特訓をしようと言い始めた。
だが、その日、一度剣を交えただけで、父親は静かに言った。
「警告したはずだ、魔法には触れるなとあれほど」
そして、父親は突然呪文を唱え始めた。
「ダークサイレント!」
彼はあろうことか俺に魔法をかけたのだ。
何の魔法か分からなかった。
「父さん……何を?」
だが、父親は無言で自室に帰っていった。
次の日。
俺はいつも通りルーシャとともにモンスター退治をしようと街の外をぶらぶらとしていた。
「そう言えば昨日さ」
「なんですか?」
「親父になにか魔法をかけられたんだ」
「え、魔法ですか? なんて魔法ですか?」
「確か、ダークサイレントって」
「え!? それって!」
その時、俺たちは10匹ほどのオークの群れに出くわした。
俺は魔法で蹴散らそうとした。
「ファイアーボム!」
だが、何も起こらない。
「どうなってるんだ!? 魔法が発動しない!」
「お父様に魔法が封じられたんです! ダークサイレントは魔法封じの魔法です!」
「なに!?」
俺は他の魔法も試してみた。
だが、やはり発動しない。
結局その戦いでは、ルーシャの魔法に頼って事なきを得た。
「魔法が封じられたなんて……。それじゃあ剣の腕を磨くことができない!」
「お父様はどうしてこんなことを!?」
「分からない、ただ昔から俺を魔法から、剣以外のことから遠ざけようとしてきた」
何を考えているんだ、親父。
全く理解できない。
俺に魔法に触れさせたくないからといって、ここまでするだろうか。全く常軌を逸している。
「くそっ! ここまで干渉される筋合いはない! 俺だってもう16なんだ!」
俺はすぐ側にあった木を思い切り蹴飛ばした。
ルーシャは6つの宝石のついた円盤を取り出した。
俺はそれを受けとる。
すると、前回はまばゆく光った赤い宝石が何の輝きも放たなくなっていた。
「やはり封じられているようですね……」
「やっぱり使えないのか……。やっとなんとかなると思ったのに……。封じられてる状態はいつまで続くんだ!?」
「それは分かりません、術者の魔力に依存するので」
「くそっ!」
俺はひどく落胆した。
しかし。
「あ!」
ルーシャが何かに気づく。
「どうしたんだ?」
「よく見てください! とても、とても、微かではありますが、白い宝石が光っています!」
言われてよくよく見てみると、確かに白の宝玉は弱々しいながら光を放っていた。
「確かにこの間は赤い宝石しか光ってなかったはずです。それなのにどうして!? あり得ません!」
「これって、そんなにすごいことなのか!?」
「これが意味しているのは、ハリさんには光の魔法の適性があるということです!」
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