第1話
騙されたと思って6話まで読んでいただけると嬉しいです。
俺の名前はハリ。黒髪に黒い瞳をした16歳の男だ。
俺には剣聖と呼ばれた父親がいる。
「剣を極めろ!」
と言われ、俺は幼少の頃から剣の英才教育を受けてきた。
俺が修行してきたのは片手剣だ。
文字通り、片手は手ぶらでもう一方の手で剣を持って振るうというものである。
だが、俺には根本的に才能がないのだろう。
全く上達せず、俺が剣で倒せるのは最弱のモンスター、スライムだけだった。
父親は俺を剣以外から執拗に遠ざけた。
剣しかやってこなかった俺は当然、それ以外何もできない。かといって剣士でありながら剣もダメ。
つまりできることは何一つない。
無駄に16年という時間を生きてきたのだ。
でも、剣聖と呼ばれた父親は俺の才能を信じて疑わないのか、俺に特訓を施し続けた。
俺は父親の期待にこたえるためにも剣だけに執着した。
それにやっぱり剣ってかっこいいし。
かっこよさで負ける他の武器をやる気にはなれなかった。
「リメラ、好きだ! 俺と付き合ってほしい!」
唐突だが俺は好きな人に告白した。
肩に届かない程度に銀髪を伸ばし、エメラルドの瞳を持つ美少女が目の前に立っている。
彼女の名前はリメラ。職業は俺と同じ剣士だ。
彼女は幼なじみで、俺は彼女のことがずっと好きだった。
だが、彼女の返事はこうだ。
「ハリ、あんたの気持ちは分かった。
人としてあんたのことが嫌いなわけじゃない。
だけど、あたしは自分より弱い男と付き合いたくない。
あたしを剣で負かせられたら考えてもいいよ」
それがこの街の剣の大会で3連覇中の天才剣士の言葉だった。
ある意味、告白に対する絶望的な返答。
でも、フラれたと思えるほど俺のメンタルは強くない。
これまで以上に強くなりたくなった。
でも、どんなに剣を振るってもやはり全く上達しない。
そんな、ある日。
街中で俺は突然声をかけられた。
「こんにちは、はじめまして」
それは黒いローブととんがり帽子に金髪が映える美人だった。
服装から明らかに魔法使いだ。
赤い瞳にスタイル抜群のボディラインは蠱惑的な魅力があった。年の頃は俺と同じくらいか。
しかし、こんな女の人に声をかけられる覚えもないのだが。
「なにか用ですか?」
「やっと、やっと、見つけた……」
見ると少女の瞳には大粒の涙があった。
なんだ、俺が泣かしたのか!?
しかし、なにもしてませんよね、俺!?
「どうしたんだ!? 俺なんかした!?」
「ごめんなさい、ごめんなさい、そんなんじゃなくて……。わたし、とても嬉しくて」
どうやら嬉し泣きのようだが状況が全く飲み込めない俺。
「あの、あなたはわたしの運命の人です。わたしと付き合ってください!」
告白されたらしい。
だが、本音を言えば、いきなり運命の人だとか言われて、俺は内心ドン引きしていた。
そもそも俺はリメラ一筋なのだ。
だが、こんな泣いてる女の子を放置するわけにもいかないだろう。周囲の目も気になる。
「どういうことなのか説明してもらえるかな?」
「いきなりごめんなさい、驚かせてしまって。名乗るのを忘れていました。わたしはルーシャといいます。あなたは?」
「ハリだけど」
「ハリさんですね。ハリさん、実はわたしは特異体質なんです」
「特異体質?」
なんとも急なカミングアウトだな。
「はい。わたしは自分の意思とは関係なく周囲の人の魔力を吸って自分の力にしてしまうんです。だから、周りの人は疲れてしまって、わたしと3分も話していられません」
なんてはた迷惑な特異体質なんだ。
まあ好きでそんな体質に生まれたわけではないだろうからかわいそうと言えばかわいそうではあるが。
「そうなのか」
「はい。ところでハリさんは先ほどからご気分はいかがですか?」
「気分? 特になんともないけど」
「ああ、やはりあなたはわたしの運命の人です。普通の方なら、もうすでにわたしに魔力を吸われて気分が悪くなっているはずですから」
君の都合で一方的に運命の人にしないでいただきたい。
なんか俺が普通でないと言われてるみたいで正直あまりいい気もしない。
「普通の方ならって、俺もいたって普通」
いや、よく考えると普通以下の最弱剣士だったな。
「ハリさん、ひょっとしてご自分ではお気づきになっていらっしゃらないのですか?」
「どういうことだ?」
「あなたには膨大な魔力があります。並の賢者が到底及ばないほどの」
「賢者すら及ばないほどの魔力? そんな、そんなはずは!? 俺はなんの取り柄もない人間だ」
そう、そんな魔力なんてあるわけないだろ。
俺にあるのは剣の天才的な才能のなさくらいだ。
「魔法を学んだことは?」
「ない、俺は生まれてこの方、ずっと剣だけしかやってない」
「ひょっとしたら、とてつもない魔法の才能があるのかもしれません」
はあ、正直あまり興味がないんだが。俺がほしいのは剣の才能なんだよ。
彼女は手のひらにのるサイズの小さな円盤を取り出した。
円盤の中央には六芒星が描かれ、その頂点に赤、青、緑、茶、白、黒の6つの小さな宝石が嵌め込まれていた。
「これで簡単な魔法の適性を見ます」
「魔法の適性?」
「さあ、これを手のひらに乗せてみてください」
俺は正直めんどくさいことになってるなあと思いながらも言われるままにした。
すると、赤い宝玉はまばゆく輝いた。
そして、その宝石から深紅の鳥が現れたかと思うと、どこかへ飛んでいった。
なんだったんだ、今の?
「これって、才能があるってことでいいのか?」
「驚きました……。これはもう才能や適性があるとか、ないとかのそんなレベルではありません。あなたはいったい……」
なんかひどくびっくりしているようだが、こっちはあんましどうでもいいんだって。
俺はだんだんやけくそな気分になってきた。
「そんなに才能があるんだったら、魔法使えちゃったりしてな。えっと、ファイアーボール!」
俺はふざけてそれっぽく唱えてみる。すると。
俺の手のひらが赤く輝いたと思うと、そこに巨大な火球が発生した。
「そ、そんな!?」
俺が魔法を発動させたことに驚くルーシャ。
「ちょっとこれどうしたらいいんだ?」
「そのままにしていたら消えるはずです!」
彼女の言うように火はほどなくして消えた。
「本当にあなたは魔法の修行をしたことがないんですか!?
とても信じられません!
いくら潜在的に魔力があっても、才能があったとしても、修練なしに魔法を発動させることはあり得ません!
やはり、あなたはわたしの運命の人! わたしはあなたに一生ついていきます!」
俺はこの時知らなかった。
俺を待ち受ける運命も、ルーシャの正体も。