消えない声と・・・
俺は素知らぬふりをして資料室に入り浸っていた。出ていけといわれれば出る。迎え入れたが気に入らないと切るのが多いのだろうから。大概の事件のことが分かった。概要もきっと権力にいうことを利かす輩よりはわかってもいるし、扱い方も知っている。立場を勲章だと思っているのだろう。所長が自分の部屋に入って行ったのか。点でバラバラに動いているようだ。俺は用意された椅子に座った。阿久津の存在を認知しているのは奥村と西條くらいだろう。西條もうでを上げたと思っている。ドアがノックされた。開けたドアからのぞかれた顔は最初に対応してくれた人だった。
「貴方、久世グループの御曹司なのに、いったいどうして此処にいるの?」
「聞かれた質問が愚問で残念だ。俺は親父やおふくろが嫌いだ。それに加えて親父たちの意見に賛同していたメイドも嫌いだった。俺は親から存在価値を中学の時に否定された。」
「存在価値を否定?そんなの嘘に決まってるじゃない。だって、跡取りを失ったら困るのは親のほうじゃない。」
知らぬ人は好き勝手に妄想に机上の空論を加えてきたがる。それを小学校、中学校とされた。高校は名乗ることなく行ける学校を探して正解だった。俺は資料室にある窓を見た。汚れた窓にはきれいに映った景色があった。
「俺が聴いたのはドアから漏れた声だ。嘘偽りのない。その時、俺はボイスレコーダーを動かしていたから。」
「そう。ごめんなさい・・・。」
申し訳なさそうに一礼をした。影には寂しさが乗っていた。彼女はため息をつくことはない。笑顔を見せているから此処のムードメーカーなのだろう。
「俺はどうも面の割れたところにいるのは心地がいいものじゃないな。俺は行くよ。」
彼女の肩をすり抜けた風の冷たさなど感じない。俺には決意しかないのだろう。数多のことを考えることはなく、事件のことしか目に映っていない。
「それでいいんですか?貴方の弟さん、悲しがっているんじゃないんですか?」
「俺のことなんか関係ないんじゃないんですか?貴方にとっては無関係なことに時間を取らせるほうが悪いですから。」
俺は向かってくる声は聞こえなかった。そのあと、ネットカフェから自分の荷物をもって出た。新たな場所を開拓する時間もない。携帯を見つめても変わらない。舗装された歩道を歩いた。近くには用水路らしき川に携帯を投げ入れた。俺の中にあるのはむなしさと一体何か計り知れないものを持ち合わせているから。




