縁と円
土木は飲みすぎたのかぐったりしている。彼が泊まっている個室を教えてもらって運んだ。一緒に運んでくれた青年は笑った。
「俺、此処に来たのは大学に失敗して・・・。それも裕福な家庭だったから縁を切るとまで言われて・・・。」
「今はどうしているの?」
「バイトしながらそこの大学を目指しているんですよ。予備校に通うにも金がかかるんです。親は金を出さないの一点張りで。だから許されなくてもいいかなって思い始めているんです。あがいてあがいて悪あがきになってしまう位なら。」
浪人になってからかなりの年数がたっているのだろう。親も理解しない。出来損ないという評価をするのはあまりにも簡単なのだ。きっと、楽しい大学生活が見えていたのだろう。滑り止めもあったはずだ。それですら認めなかったのだ。認めてくれないのなら浪人を抜け出して自分で働いたお金で大学へ行ったほうがよっぽどいいと考えたのだろう。結論を聞いているようだ。
「それに納得してくれる人は周りにいたの?」
「俺の世話をしてくれた人は特に。出来損ないってわけじゃないのに、狭いファインダーでしか見てないのだから口出しをするべきじゃないとまで言ってくれて驚いたんですよ。その答えに返したいと思って奮闘しているんです。予備校の先生から特待生をとれるくらいに上がってるって言われてうれしくて・・・。でも、家には帰れないからメールのやり取りですよ。」
かすかな希望がそこには宿っているのだと思った。疑ったわけでもなく・・・。切り捨てた親のことは存在を消してしまうほどだ。あがいたことをわかっている。それで得られるのも知っている。誇りに思うこともあるだろう。きっと親を超える存在となって脅威となって驚いて急いで縁をまたつなげようとするのだろうから。愚かさを吐露したところでうんざりだ。彼は勉強をするといって自分の部屋と入ってしまった。資格の勉強もかねてやっていたりするのでそこには推薦でも入れると聞いているらしいが、一般で入ることを選ぶのだという。俺は無駄な知恵を使って考えて疲れてしまった。寝てしまいそうな体を起こして、パソコンへと向かう。阿久津の存在がある。阿久津は今もあの会社で働いているのだろう。ほしい権力を得たいがための行動だろうから。
「阿久津さんって言っていたのが愚かだな・・・。むしろ、呼び捨てにするのがあっていたような気がする。」
仕事をしていたという感じではなかったから・・・。




