現在の今
風呂を出た後にテレビを見た。夜遅くに見るといったらドラマもあるが面白くなかったらニュースを見るが物騒な世の中であると証明しているようでもあるのだ。玄関からドアのガチャガチャとする音が聞こえてきた。電気がついていることに気づいたのだろうか。足音を小さくする様子もない。
「ただいま。」
「おかえり。数多、飲んで帰ったのか?」
問いかけると彼は首を振った。バイトだけして帰ったのだろう。堂安と飲めるとも思ったのは事実なのだろうから。コップに入った水を飲み干して冷蔵庫から缶ビールを取り出した。
「飲むか?」
「兄貴が堂安と飲んでいると聞いたからさ。久しぶりに飲めるのかなって思ったけど終電に合わせて帰ったのか。」
「そうじゃないよ。ただ堂安を縛りつけるのもいけないだろう。いくら仕事だからといってな。今のご時世に合ってないんだよ。」
執事と運転手を兼用しているので疲れもたまるだろうと思う心がわかるのだろう。不服そうな顔をすることはなかった。彼も似た人生を歩んでいる。
「そうだ。兄貴知ってるか。今日なんか物騒な事件が起きたらしいんだ。」
数多が言うには大手企業が入るビルが爆破に遭ったというのだ。犯人を捜すにも防犯カメラの履歴もないのだ。恨みを買いやすい社長であったともいわれている。
「何処の会社だ。」
「久世グループの1つだよ。親父のところを狙うんじゃないのか。小さな企業を倒産させてきた過去もあるから恨みを買うだろう。」
「最初に狙われたのは?」
「伊丹のところだ。犯人は電気を切ったらしいからな。閉じ込められてやられたという話だ。堂安も阿部も知らなかった。テレビを見たらやっていたから驚いたよ。」
伊丹の行っている事業はITなのだ。それも小さな会社が考案したものを技術を奪うやり方で大きくしたのだ。伊丹は久世グループの幹部ともいわれる根幹を扱っている人間を失ったのだ。俺に飛び火することもないだろうから。何時も通りの作業を繰り返すだけのだ。
「まぁ、俺たちには関係ないだろう。」
「そうだ。飲み明かすか。」
数多もダイニングテーブルに来て座った。立ち話をするのに気兼ねがない。久世というレッテルをはずしたいのだ。久世には恨みや憎しみをもっていても不思議はないのだ。その度に注意しても聞かないので嫌気がさして高校の時に飛び出した。そして今に至るのだ。数多も同感だといって高校は別のところに行った。間違いではなかったと心底思うのだ。