帰り道
1度、家に帰るために車に乗り込んだ。車の中でぼーっとしているとまばらな光が無造作に飾られていた。家につくと俺はすぐに自分の部屋へと入りこんだ。病院に行ったときに夏目が言っていた。
「そういえば、黄劉会の方が連絡をくださりました。阿久津様に売ったというものです。」
近くであることが起こるのだ。それを予言しているのがあくまでもノートなのだ。数多を心配させぬように音をあまり立てないように用意をし始めた。キャスターケースではごたごたと音が鳴ったりするので、布地のバックに入れた。下着や心ばかりの服を突っ込んだ。帰る場所じゃないと言い聞かせる。数多はきっとバイトに行くだろう。親父が死んだことを打ち明けずに行けるような場所を見つけたのだろうから。数多はリビングで大きな声を出した。
「バイトに行ってくるよ。」
不自然なことではない。時々あることであるから大して気にしていない。階段をバタバタと靴を鳴らしていた。うれしいときなどは今以上に騒音と思えるほどの音を鳴らす。数多がしているバイト先は知らない。そこまで立ち入らないと決めたのだ。それは働いている場所を知ってしまうと普段の姿を見せているのだろうから干渉してはならない。数分どころじゃないだろう。体感の時間というのは厄介な代物だ。かなりの時間だった。俺は置手紙も書くべきじゃないと思った。心のこもった厄介な思い出などいらない。久世グループを抱える人間になっているはずだった。それをけったのは数多自身なのであるが、何処かチクチクと針が刺さっているかのように引っかかっている。それを抜くどころか広げているようなのだ。足を踏み出していたのは道路だった。タクシーを止めた。すぐに荷物を詰めた。駅までと告げた。阿久津がいた黄劉会独特の場所があることを知っている。
「これから仕事かい?」
「えぇ、夜勤の仕事をしているんですけど、遠いところで働いているんです。」
「最近、多いって聞くよね。まぁ、土地もそうだけどいいよね。住んでいる場所じゃないのかもしれないね。」
よくしゃべる運転手だからこそ忘れてしまうであろうと思った。奥村も西條も気づかないようにしているのである。数分の出来事だったが、楽しかった。それはきっと数多とかで味わったほうがよかったのかもしれないが、もう不可能だ。嘘に変えられる事実と戦うのだ。それに受ける損害も全て受けるつもり。変えられないものなのだ。あの日からずっと・・・。ずっと・・・。




