死と対面
霊安室に行った後、緊張していたのだろう。病院を出たらすぐにため息をついた。ためらいもなく見境もない状態なのだろう。夕方だからなのか何を思ってか空を見上げると烏が群れを成していた。バサバサとろくでもない音を鳴らしている。悪事を迎えに来たのか。それとも何かを告げるために現れた使者なのか。ぼーっとしていると黒塗りの高級車が場違いを哀れに思うかのようにいる。
「会われましたか?刹那様、数多様。」
「あったよ。顔もわからないと聞いていたからさ、見なかったよ。」
「それがいいです。私は訃報を聞いたとき、天罰が食らったのだと思ったんです。あれだけ暴力団に仕えていたんです。警察には顔見知りがいるからでまかり通って来たために付けがいずれ来るものなんです。」
夏目は親父とおふくろが雇っただけだと思った。社長を務めていた人間がいなくなったことで役員同士の無様な争いを起こすのだろう。親戚中が群がって遺産の会話に入ってくるのだろう。沢山の仮定を考えただけでうんざりする。世間じゃあ自分の功績を歌うだけの歌手がいて、都合の悪い質問に答えることなく逃げている政治家がうじゃうじゃいる。それでも何処か責任なんて言う言葉を言うだけで何も残らない跡を追っているだけでしかない。失言をする政治家にはもっぱら立場だとかいうだけで手には空気をつかんでいるようなもの。かすれた声で何を聞いて叫んでも届かない愚か者どもの合唱に聞き飽きたとつぶやけば、こちらが悪いかのように説教じみたものを返してくる。互いに思わぬ限り、何も響かない。響くどころか嘘を言うのを仕事なんて言うのはペテン師だけで十分だ。人を守る嘘にはありったけの愛情を感じるものなのだ。自分を守る嘘には誰も得をしない空虚な世界を浮かんでいる。俺の中に存在する損得勘定なんて自分を何に対して守っているのかと人に問うことを同じことをしてしまうので元も子もない。
「まぁ、久世家の疫病神をいなくなったからやっとやり直せるね。」
「それはさ、人を見てから言うべきだろう。どうせお前も継ぐ気なんてさらさらないんだから。うかつに言うべきじゃない。」
「わかってるって、兄貴。俺はさ、世の中の流れも見れずにマイペースにやっただけならいいんだ。ただ、悪事を働いてさ、失態を示すのは嫌なんだ。」
阿部は近くにあった自動販売機で缶コーヒーを買ってきていた。コンビニが近くにあるが、それでも何処か親身に感じるものがある。孤立を望んでいたわけじゃない。悪目立ちがあだを生む。




