光と闇の方程式
静かな時間が流れるのは住宅街だからだろうか。それか今だけ静かになっているように装っているのだろう。俺は着替えるためにアパートに帰った。リビングに行くと数多が心配そうな顔をにじみだしていたが、顔を見れて安心したのか少し笑っていた。俺は何も言うことなく、冷蔵庫の中にある茶を出した。がぶ飲みをした。口いっぱいの空気を吸ったかのようだ。
「兄貴、昨日は緑谷君の家にいたんだろう。」
「そうだよ。出かけていたらさ、飲みに来ないかって言われてね。断る理由なんてないだろう。」
「それならいいけど・・・。バイトして終わったらいなかったからびっくりしたよ。」
「いないほうがゆとりがあっていいだろうがよ。」
俺が吐き捨てるように言うと図星だったのか顔を下に向けた。俺は多くを話すわけでもなく、自分の部屋に入った。湿った空気を漂わせているのか何かを感じ取っているだけなのかもわからぬままいる。カーテンを開けてみると時間が流れを止めようとしているのかと錯覚してしまっているのだ。俺は椅子に戦いに負けたように座り込んだ。いや、へたりこんだ。目についたノートをとってみた。自分の律儀な書き方が今の運命へと足を進めているのだと心底思ってしまう。ペラペラと紙の音だけがむなしさをにじみだしている。
「今の心情がどうであれ、事件は止まったわけじゃないのだ。また、繰り返される。犯人は見当がついているだろうから言わないでおこう。俺なりの大切にしているものの方法であるから。」
キチンとした字の中に輝きがなかった。告げ事を嫌う俺らしいなと思うわけなのだ。ノートを見なくなってからどう変わったのかを問うのもやめた。事件を追うことは素人がするべきじゃない。そんなくだらないことを考えているのはいけないのだ。俺が全うするべきなのは兄貴として数多を守ることである。単純なわけじゃない。窓に映るけだるそうにいる俺をあざ笑っているのはあくまでも俺しかいない。狭い部屋に押し込まれたときのように心も迫っているのかもしれないのだ。ため息をつく度に嫌気が流れ込んでくる。新しい空気を吸い込んだとしても新たなものとなってなり替わっていくのを待っているだけしかないのだ。事件へと足を進めるしかないのだ。俺は重い腰を上げてカーテンを閉めた。心地の良い場所を作り上げたようにしか思えなかった。失敗だとか成功とかくだらない論争を1人でするのは何処までもおこがましいもの。見失ったのは光か。




