言わぬ決意
俺は酒に飲まれてしまったのか、けだるい錘を抱え込んでいた。緑谷は心配したのか寝てしまっている。いてもたってもいられないわけではないが、そばにあったゴミをつかんだ。最初がご丁寧に扱われていたくせに役に立たないとわかったとたんにすぐに投げ捨てられるのだ。そんなものである。逆らえないものをもっていたわけでもない。それでも思ってしまうのである。嘘には正しいものなどはないだろう。ただ使い道を間違えたものを見せびらかすなんて愚かなことはしない。輝かしい形跡になんてのは勲章でもない。
「久世、起きたのか?」
「まぁ・・・。」
「やけ酒をするのをよくないというのを聞くけどさ、いうのは簡単なんだよ。実行できるかなんてのはわからないものなんだよ。」
俺は緑谷がもって来た水を飲んだ。透明で味がないわけではない。無味だったら味気ないだけだ。無臭でもそうだ。少しの味を感じるからこその意義があるのだ。くだらないものを嘆いたところで誰がとんだ同情をしてくれるのだろうか。嘘でも言っているほうがましなのか。俺は窓を見つめた。明かりを探す。灯なんて言うのは闇にあるからこそ見つかるのであるから。太陽というのはプライドを照らすものでもないのだ。やさしさでもない。
「俺たちはいったい何処に向かっているんだろうな。」
「さぁな。嘘でも時間ってのは進んでいるんだ。未来だとかうわべを言っておけばいいんだよ。きっと愉快な声しか聞こえなくなる始末だろうから。」
彼には過去の後悔があるのだろうから。それが何処までも理不尽であることをつぶやいたところで気づけないのだ。高らかな笑い声すら聞こえないときだってある。エゴであることを言うのはもっぱらエゴを主張するだけの連中なのかもしれない。
「緑谷、すまないな。世話になった。」
「なんだよ。今更くだらないことを言ってないでさ、頼りなよ。数多もそう、堂安、阿部、俺や奥村はお前の味方だ。仮面をかぶった連中には負けない強さがあると思うぜ。夏目さんだって単に時間を過ぎて過ごしただけじゃないだろう。」
夏目のことを知っているから言えるのだ。自分の子供ができても親父の言いなりとなって使われている。俺と数多の子育てをして終わりじゃなかったのだ。マネジメントなんてうわべの言葉ですまないことをやっている。それを黙って聞いているのだ。
「幸せだなんていうのは幻想でもない。自分で作り上げる最高の歴史なのかもな。」
「そうだな。」
俺は素朴な笑顔なのか作り笑顔なのかわからぬまま、緑谷の家を出た。決意を改めて持った。・・・。




