帰る時と演者
緑谷が言う言葉には痛いところを突かれるときがある。俺は素面のふりをしてワインを流し込む。流し込んだところで気持ちが落ち着くのならいいのだが、そんなことはあり得ないのでただ食べることに集中をするくらいだ。
「そういえば、お前気落ちしてるけど、何かあったのか?」
さすが、長年一緒にいるだけある。建前はいくら豪華でも気にしていることは変わらないのだ。俺は少しワインを飲んだ。喉を潤しておきたかった。
「あぁ、林に会ったんだよ。天文部の部長していたさ。」
「へぇー、あいつ、どうしてた?」
「久世グループの会社には入っていないって言っていたよ。何処かいい会社に入ったんじゃないのか。生き生きしてたし、まぁちやほやされるのは変わらないだろうけど。」
から揚げに箸を伸ばす。ジューシーとか言われるくらいなのである。うまいと有名な店で買ったのだろう。緑谷は有名になったりすると血迷ったように行くのだから。それを知っているのは限られているのだから。気づけばワインの空の瓶がテーブルの上に乗っかっていた。迷惑だといっても退かないように堂々としているのだ。そばにいるのだというように。
「久世のさ、中学にいたときが汚点だといっていてもさ。あいつの軸はきっとお前の親父と近いところがあるんだろうよ。」
「林は久世の大学院まで出たとか言ってたし。」
「まさかさ、黄劉会の構成員とかないよな。お前の親父って黄劉会の隠れ幹部以上の扱いを受けるんだから。」
あり得ないとは一概にいえないのはその場所にいたということだろう。黄劉会の幹部に会った時、親分とまで言われたのだ。それくらいなのだ。親父の悪事は昔から変わらないということを勝手に証明しているようなものなのだ。うんざりした声を返すしかない。
「まぁ、これで俺もお前も取次は済んだんだ。少しはゆとりをもって行動をしておけばいいんだよ。それくらい罰を受けないだろう。政治家だってさ、胡散臭いセリフを堂々と下手な演技を加えていうんだ。子供じみた喧嘩したって愚かだということも気づかない。そんなものなんだよ。」
うるさいほどの音量でろくでもないことを言うのだ。それか決まりきったセリフを恥ずかし気もなく言うのだから。俺はその言葉を聞いてただうなずいた。その動きを見た彼は嬉しそうに笑った。ただ単純な時間だ。時計の針を戻すことを選ぶなんてしない。取り違えたとしても認めないものがあるとしてもだ。嘘に勝てるものをもっているのだと。




