声の響き
俺はビルから少し離れたコンビニに行くのではなく、喫茶店といわれるような面影を持った店に入った。周りが見渡せる分、余裕があるがあるのだ。店員にコーヒーを頼みカウンターでくつろいでいた。黄劉会の部下が訪れればきっと目につくところにいるのだ。コーヒーがテーブルにそっけなく置かれた。それが雰囲気にあっていてむしろ良かった。こだわりをもっていることがいいのだと思ったのだ。ミルクを入れた。苦味を感じるのを少し抑えることができる。俺は携帯をかけた。
「もしもし。」
「どうなさいました?刹那様。」
聞き覚えのある声が心を緊張から居場所を作ってくれるのだ。俺が生まれたときから知っているので心ぐるしくない。むしろ、察してくれる分うれしいものなのだ。
「夏目、今日黄劉会に行ってきたんだ。それで阿久津って名前が挙がったら親父に流さずに俺に流してくれ。」
「わかりました。伝える相手が違うだけですから。簡単なことですよ。うまい話しじゃないことはわかってます。ですから、危ない橋を渡るのはやめてください。」
真剣な言葉に返すものを持ち合わせていない。親以上の関係だと思っているから下手な芝居なんかするべきじゃないとわかっているのにしてしまうのだろうか。してしまうのが悪いのだと知っている。夏目の心配そうな顔と数多の不安を抱えたときの顔が同時に浮かんだ。苦しいとぼやきたいが、してはならない。するべきじゃないと思った。
「わかっているよ。まぁ、親父とうまいことをしておいてくれよ。」
言い捨てるように逃げるように言って切った。うまいと感じたさっきのコーヒーもさっきほど思わなかった。苦味も甘味も酸味も全てかき消されたような感じが漂っている。空気としてなかったのだろうとなるのだ。マスターが気にするようにこっちを見ている。こぽこぽと音が鳴っている。お湯を扱っているのである。注ぐ様子が様になっているとはこのことを言うのだと感心してしまう。
「お兄さん、疲れた顔しているね。大きな仕事でも抱えているの?」
「まぁ、そうですね。だけど、いうことですっきりするとは限らないんだと思うんですよ。」
「こんな世知辛い世の中じゃあ息苦しくても誰も叫べないわな。叫んでも無駄と思うから檻にでもこもってしまうのかもしれないな。」
的を得たような口調をしているのを聞いて同感としてしまうのである。マスターの心にしみる言葉を待っているのかもしれないと感じてしまうのである。




