声の眺め
俺は何時もの通り起きた。心が違うのだ。昨日とはまるっきり違っている。トーストを食べると朝食と昼食を兼ねているものなのだ。数多は大学に行ったのだろう。音がしないのが、静かで何処か誰もいなくなったような感じがした。俺は奮起して家のドアから出た。普段の恰好と何ら変わらないのに誰かに問われそうで怖くなっている。お目当ての場所までは電車で行く。駅から近くない。そんな場所がいい場所にあったら人が怯えてしまう。繁華街の一角にあると聞いたのだ。俺はそのビルについた。ぼろのビルであった。オーナーもわからなくなったとか言っていた。回された権利は空虚となって浮いていた。そのビルの4階にあるといっていた。エレベーターはない。建築上の問題で付けられぬのだ。入ろうとしたとき、何処か気取った名前が目についた。黄劉会と書かれていないが、株式会社と名乗っているので兼ねている。ドアをノックした。
「どうぞ。」
「すいません。」
腰の低い姿を見て複数人いるガタイのいい男たちがあざ笑っていた。何故、お前のような人間が此処にいるのかというように・・・。闇金なのだと思った。
「お金を貸すとかいうお話ですか?」
声からしてうわべの言葉を連ねているのが明らかだ。俺は顔を下に向けて、続けて出てくる言葉を待った。
「うちはどなたでも貸しますよ。銀行でお断りされた方などいますが・・・。」
「貴方たちって銃を売ってますよね。」
「突然、いったい何の話です?」
すっとぼけた顔を見せている。いら立ちをそそる表情をしているが、わざと仕向けたものだということを知らないのだ。俺がどんな人間であるより弱い人間を下に見ることのほうが重要なのだと確認することができた。
「阿久津という名を知ってますよね。」
「さぁ・・・。」
「知らないわけないでしょう。黄劉会の幹部生の候補であったということを知っているんですよ。売ったんですか?物を。」
会長なのか知らぬが、奥に座っていたきらびやかな服装なだけの男が近づいてきた。威圧だけは一人前にあるが、他のものがついてきていない。大きなソファに座った。
「君には興味がある。君も座りなさい。こら、お茶でも出しなさい。きっと顧客じゃない。」
急いでお茶を注いでいる様子を見ると会長か幹部の人間なのだ。顧客というのは闇金であって、ぶつを売る時は別の言い方をしているのだろう。テーブルにお茶がおかれた。飲むつもりはない。
「君はいったい誰なのかね?」
興味津々の顔が殺意にも映ってくる。




