思い込みと願い
食事を終えてコーヒーを飲んでいた。ランチにはたいていお金を出せばついてきたり、その中に含まれていたりするのだ。ぼっとしているとドアがカランコロンとなった。
「久世、どうだった。新しい会社の顔出ししてきたんだろ。」
奥村と西條だった。西條はもっぱら奥村の言動に怯え切っているようにも見えるようだが、何処かわからないうちに安心している感じもある。近くの2人のテーブル席に座った。店員にコーヒーを頼んでいる。
「緑谷から聞いたのか。」
「まぁな、あいつの心配症はきりがないぜ。俺も此処に来る用事もあったから歩いていたら窓からお前の顔が見れたから入って来たんだ。」
素直に告げる姿には抗える方法を持ち合わせていないのだ。それも知った仲ほど抗っても仕方がないのだ。嘘をついたところで見分ける機能を搭載している。店員が運んできたコーヒーを1口、奥村は飲んだ。
「うまいな。堂安。」
「ですよね。此処は雑誌に載っているほどの店ですから。私の知り合いがいるに過ぎないんですが、ある程度のわがままを聞いてもらってますので・・・。」
「堂安もよかったな。お前が望んでついた相手が久世でな。こいつの親父ほど意地汚い奴は知らないよ。」
言い捨ているように言ったのは心からの叫びだろう。西條の表情は笑顔になったり、戸惑った顔は見せることはない。全てをなかったと切り捨てることがあるのだ。それも2人が好まないのは全ての生き方を否定しているのと変わらない。
「それで情報はまた流すわ。此処で大きな声で言うほど図太くないから。」
久世の肩をたたいて出て行った。きっといい情報なのだろう。警察の輩には流したくないほどのものなのだろうから。西條は一礼をして立ち去った。心意気を受け継いでいるのだろうから。
「私たちも出ますか?」
「そうだな。礼だけしてな。」
会計を済ませて堂安の施設の時から仲が良かった奴と会って簡単な挨拶と店長に礼を言って出た。町の喧騒は増すばかりだ。小さくなることはない。電光掲示板にはよからぬことからいいことまで書き込まれている。それを他人行儀にしているのかにと思うとぞっとするのかもしれない。歩き出した道を止めることはできない。一歩を半歩になったとしても否定することなんてないのだろうから。進んだ記憶は代えられない、引き下がった記憶も変えられない。それを否定することは全てを行いすらなかったといいたいのだろうから。大声で言い訳をする輩にはわからない。権力に流されるほど愚かである。




