食うのか
「貴方に出会わせてくれた緑谷さんにお礼をしないとね。心がきれいでとっても正義感もある。それに加えて、謙虚だ。今じゃ少ないんですよ。うわべの権力に喜ぶ輩の多さには落胆するんです。人事に頼っても全てを見抜くことはたやすいことじゃないんでしょうがないんですがね。猫かぶってまでくるのは地位のほしさかもしれませんね。」
彼の寂しい笑顔が見えた。きっと周りには金にうごめくような人しかいなかったのだろう。同情してしまう。俺もきっと継いでいたら同じことを起こされるのだ。それに歯向かうことを選ぶなんて楽じゃない。前を向いてでもいるのか。
「有難うございました。」
ソファから立ち上がり一礼した。それは自分でも驚くほどの深いものだった。知らぬうちに心を許していたのかもしれない。
「貴方と緑谷さんは役員階級になることも理解しておいてください。会社の見る目が厳しい貴方しかわからない崩壊の音を耳を傾けないとならないと知っておく必要がありますからね。」
社長室から出た。秘書の人が笑顔を振りまいている。うわべの態度をしているのかもしれない。ビルから出ると堂安が立っていた。
「お疲れ様です。刹那様。」
「あぁ、有難う。堂安。」
ネクタイを緩めた。堂安のお気に入りの店が近くにあるのでランチをしないかと誘ってきた。断る理由もない。断るほうがおこがましいような気持ちになるのだ。車に乗り込むと疲れがたまっていたのか寝てしまったようだ。こんこんと音が鳴ったので目を開けた。気取ったような店が目の前にあった。車から降りると店に入った。テーブル席には飾りがいっぱいだ。
「こんな店が行きつけとはな、知らなかったな。」
「まぁ、私の施設で仲が良かった奴の働いている店なんてちょくちょく顔を出しているんですよ。貴方と緑谷さんと奥村さんの関係がいいなって思ったんで・・・。」
照れ臭そうに笑った彼がいた。居心地が悪くなったのか水を無理やり飲んでいた。可笑しいくらいドタバタしているようである。頼んでいたパスタとハンバーグが来た。
「刹那様はハンバーグが好きだというのは執事の中では知られた話ですよ。長年メイドをしている人が作ったのが初めてだって言ってましたから。」
「そうだな。メイドもうまい奴とうまくないやつがあるからな。まぁ、歴の差って此処まであるのかと思い知ったから。」
うまいハンバーグをただひたすら食べる。それが今のほっとする行動なのだ。きっと事件を解決させると。




