つながる思い
意図的に一服しているように見せるためにコーヒーを飲んだ。社長室でも窓が広く外が見えやすくしているのだ。雑踏のが聞こえないだけで眺めていればきっとこの人には聞こえているのだろうと思った。
「貴方も彼もいい人の近くにいるですね。私はとっくの昔にいなくなったんですよ。今は、金の亡者となった人間だろうから。」
「私には感じたことはありません。ただ、緑谷とは幼馴染では済まないということだけは知ってます。」
「それは雰囲気でわかりますよ。金でうじゃうじゃわいてくる人間じゃないっていうことを。彼に会った時の顔を覚えてますよ。」
緑谷と会ったのはバーだったという。しっぽり飲むときに使っている常連の店にいたのだろう。そこでマスターと話し込んでいるのを聞いたのだというのだ。今の会社は信用ならない。きっと俺も気づいているだろうけど、黙っているだけだ。優秀な奴の腕を奪い取るのはもっぱら会社に過ぎないのかなって。佐々木は声をかけた。最初は驚いたような顔をした。名刺を手渡すと大手企業であることに声も出ていなかったと。緑谷はそんなところがある。さっきの話はどういうことかと催促したら全てを話してくれた。会社に詳しい奴が言うにはつぶれるといっている。俺を連れて他の会社を探したいといったらしい。その表情は何処か切実だった。自分の将来を悲観しているからではなく、俺を思っての顔だと知ったのは複数回あった時のことである。そう思っても口に出すことをあまり求めない。
「貴方が作り上げた関係は私には入り込めないでしょうね。自殺未遂を起こした時から決意していたみたいですよ。貴方が後悔するような経験をもうさせたくないといってましたよ。彼は素面の時と酔った時あまり変わらないですよね。陽気でいい人で。」
緑谷の話を聞くとうれしい。あいつの腕が認めらえれているのだとも思ったのだ。堅苦しい空気が鰆いでいる。温かい空気が流れ込んだ風を受けているのだと実感する。心が軽くなったふりをしたのだ。空想の世界をしているのだ。
「貴方と緑谷さんが来るってことで。」
「大した話をしなかったんですけどいいんですか。」
「構わないんですよ。私の会社には風通りのいい窓が欲しいんです。」
欲望が過ぎるといっていた顔じゃない。ただ社会を変えるといった希望を持った顔をしていた。これがあるべき姿だと思ってしまうのは間違いなのだろうか。嘘だ、言い訳だといって戯言をしているのではない。




