手本、時々傲慢
変な緊張が背中を伝う。伝っているのはいったい何であろうか。目の前にコーヒーが置かれている。こだわりをもっていそうな雰囲気を醸し出している。
「貴方に会えるのを楽しみにしていました。」
「私は大したことはしていませんよ。以前の会社では経理のエースと呼ばれていたみたいですけど。」
「それは外に漏れていましてね。緑谷さんと久世さんの二大巨頭を奪った会社が次を受け継げるとか勝手に社長などが盛り上がっていたにすぎないんです。」
俺が話すということはしない。人事の人間が話したのだろうか。通称を勝手につけられているのを放っていた所為もあるのだろう。コーヒーの黒さが世間の闇にうずまっているように映ってならない。見えていない影を追いかけているのに気づかない。背中を伸ばしてもいらぬものを奪われていくような感じだ。飲むと苦味を感じる。甘味もかすかに浮かんでいる。
「最初に緑谷さんに会った時からすでに貴方の資料をもっていたようですよ。飲んでいた時に今の会社はつぶれるとぼやいたのを聞いて動きだしたそうです。」
「私の酒を飲んだ時に言った言葉なんて当てになりませんよ。買いかぶりすぎないんです。」
「そうですかね。私にはわかっていて黙っているような感じがしてなりません。まるで機械で診断されているように・・・。」
佐々木が言った言葉はあっているかもしれない。知らぬうちに多数の会社の動きがニュースで示しているのだろうから。それを読み取っているのだ。ニュースを眺めてもろくな会話が閉占めることはないのだ。急ぎ足で成果主義といわんばかりに行動を強引にする政治家。総理といいながら独裁国家を作り上げている。駒に過ぎない大臣、官僚は上の行動に従事している。何処に国民の意見が反映されているのだろうか。浮かれ切った顔に無視を張り付けている。都合の悪いことは相手が悪いというような発言をして逃げる。責任という言葉だけが無残にも浮いているのに誰も手に付けようとしない。やめるのが嫌だからだ。自分勝手に損得勘定の世界に情は邪魔なのかもしれぬが、大事なものではないのか。同情ができぬ人間がうわべの言葉を発するのと同じ。素人の下手な芝居を繰り返す。演者が出てこない舞台の上で。わき役も主役も区切りがつかぬくらいに。子供の喧嘩のように騒ぐ。いったい手本とは誰のことだろうか。法を守れと口先では言うものの作っている人間が真っ向から違法するのは手本なのか。




