飲み干すもの
俺は朝の寝起きの悪さを感じる。新たな会社に顔を出すのだ。億劫だといってしまえるのはなんであろうか。自分の心に聞いたところで答えなど無縁だ。スーツを着る。同じ作業のはずが何処かウキウキともしている。朝食は何時もと変わらないトーストだ。数多の姿がある。大学があるのだが、朝早い時間帯ではないので普段なら寝ているはずだ。きっと新しい会社に顔出しに行くと知って起きたのだろう。
「兄貴、行ってらっしゃい。」
「あぁ。」
何時ものそっけない答えを返す。アパートを出ると堂安が黒塗りの車の前で立っていた。何時ながら頭が下がる。俺は鞄とスーツの恰好を見てきているので多くは語らない。むしろ、語らぬほうがいいのだ。車に乗り込み、エンジンがかかる音を聞いた。
「今から行く会社にはすでにアポが取れているとの連絡がありました。」
「緑谷か。」
「はい、あの後貴方が寝込んでしまったのを電話口で知ってなさったそうです。」
「お礼言っておかないとな。」
俺がそういうとくすっと笑った。緊張をほぐす役割を担っていたのを知った。流れていく季節も風景も何も思ったことはなかった。ただ、見飽きてしまってうんざりしていたはずの風景も色を変えていくのだと思う。車に乗っているときは無音というのは耐えられないのでラジオがかかっていたりする。軽快な音をかけ鳴らしているのだが、その音がノイズと変わってしまうのだ。いっていた会社はきっと奈落の底に落ちる。会社の信用から一から立て直さないとならない。いうことは簡単であっても行動は難しい。難しいことをことを知らずにやってのけようとするのは困難だ。俺はコンビニによってもらった。大したものを買うつもりはない。ペットボトルのコーヒーと堂安のために似たような種類を買った。呼び出しを食らうことが少なくなったことでストレスが少なくなったといっていた。親父にこき使われていたのだ。親父の人の使い方がうまくないのはわかっていた。ぶつくさといっているのは無意識なのかもしれない。匿名という闇に放り込まれていることも知らぬが、知ったところで答えなんぞ見つからない。見つかったら機械なのかもしれない。買ったコーヒーを飲んだ。凝ったコーヒーを飲むのも楽しいのだ。
「刹那様、社長さんと会うそうですよ。緑谷さんもすごい人ですよね。」
「社長と面識ありってか。全く何も言わずに行けるほど図太くないこと知っていてするんだから。」
笑顔を導く人にあふれている。




