力勝負
昼の宴が済み、何処か落落ち着いた雰囲気が漂っていた。金の話になると不機嫌な顔にする奴もいる。割り勘も割に合わないと思っている。
「経理何とかできないか?」
「してみるよ。ってかなるでしょう。だって送別会じゃないか。」
部長代理はよくわかっていないのか放っている感じがある。時間ギリギリであるが、前ほど何かあるわけではない。俺は領収書を出してもらった。会社に帰ると部長代理に領収書を渡した。それを受け取ると有無を言わずにやっている。部長代理には情報が来ていないのだろう。これも何かの因縁だろう。役員になれるという話が上がっている人間がいたのだから。俺は席に着いた。阿久津は真剣な顔つきで画面と対面しているが、作業を行っているようであるのだ。機械にでもなった気持ちなのだろう。心を持った機械などいらない。そういっても伝わることはない。
「戻ったのか?」
「まぁ・・・。」
「やめるらしいな。専務のところに行ってまで出すんだから、なかなかの心意気なんじゃないのか。俺の持ち合わせていないものだけどな。」
阿久津がぽつぽつとしゃべるのは珍しいのだ。何時も元気で誰もを巻き込んでしまう勢いをあるのだ。それが全くない。嘘をつけないくらいなのだが・・・。今の言っている雰囲気からは感じられない。窓に風が打ち付けたような当たりだ。
「やめます。3週間後には有給を消化し終えるので。此処でお世話になったのに、あまり語らなくて相談しなくてすみません。」
「いい。お前の人生なんだ。お前が納得する生き方をしろ。ただ、俺には相談しろよ。乗ってやるし乗ってくれ。此処にはろくな奴がいないから。」
「わかりました。お世話になりました。」
椅子に座ったまま、頭を下げた。数秒だとかわからないのだ。それでも頭を下げた。尊敬などない。形ばかりの恩だとわからなくてもいい。恩を見せておいて心を開けたままにしておくのがいいのだ。
「頭を上げろ。俺はそんなものを求めてはいないから。」
「すいません。」
阿久津の寂しいそうな笑みを見せる。それは心からであるとわかっているので苦しくなる半面、抵抗しないといけないと思ったのだ。戦う覚悟がある。それは事件に対してだ。犯人を止めないといけない。警察でもないが、素人だけで進めようとは思わない。無茶だとわかっている。奥村には手を借りる。そうしないと俺ももう納得せぬと思っている。終わらないゲームをしているのだ。実力争いではないと。




