食べ物
緑谷と俺は専務の疲れた顔を見た後で廊下に出た。何があったか思うほど人にあふれているのである。名札を眺めると経理と人事なのだ。俺たちを気にしているのだろうか。
「久世さん、やめるって本当ですか?」
「あぁ、もう此処にいることはないからな。」
気にしているように声をかけているのは新人で俺に叱られても信頼をもっていたのか。しかるといっても理不尽なことでは叱らぬのは何時もの心がけであったのだ。彼は何処か人懐っこいところがあるのに、経理で閉じ込めておくのはどうなのかと一度高棚部長に言った覚えがあった。それくらいのを隠れてしていても噂で知ってからきっと兄貴のように慕っていたのかもしれない。
「お前なら相談に乗ってやるぞ。」
「本当ですか。」
「俺は会社を見る目があるからやめる時は頼ってくれればいい。調べて助言をしてやる。」
そっけない返事を演じて言っても嬉しそうな顔をしている。その集団の後ろのほうに阿久津の姿があった。のぞき込んでいるようだ。きっと何かを確かめたかったのだろうが、入り込めないのだから此処には入ってこないのだ。阿久津には人には言えぬ案に埋もれてしまっているはずであるから。立ち入らないのがいいのだ。勝手に入っても仕方がない。
「もう、昼ですよ。一緒に行きましょうよ。」
「そうだな。お前が何時も行っている店に連れていけ。」
「それって久世さんと同じ店ですよ。店主とは顔見知りで緑谷さんと話しているのを時々見てますから。」
新人を連れて初めて行った店であったから。行きつけになったのだろう。息苦しい場所からの解放をしていかないとやっていけなかったのだ。後ろには緑谷もいた。その後ろに堂安が立っていた。少し後ろに下がって緑谷のほうに行った。
「堂安に心配するなって伝えておいてくれないか。」
「わかった。まぁ、この状況を心配する必要はないと思うから。たぶん、いつもの行動の1つだろうね。」
小声で話すのは堂安が心配してしまうのではないかと悟ったからだ。仕事をやめるというのも知っている。数多も今日はバイトがあっても入れていない可能性がある。当然でも仮病を使ってでも家に帰ってくるだろう。事件のことに頭が離れていないのだから。俺には事件を解決する覚悟がある。警察には奥村がいる。奥村は別の角度できっと情報を流してくれる。俺はそれをつなげていくだけ。そんなことを思いながら店に入った。
「いらっしゃい。なんだ。今日は団体様か。」
「そうです。2人が辞めちゃうので・・・。」
「腕を振るわないとな。お得意様がいなくなちゃうじゃないか。」




