口と災い
普通はチェーン店であるため、断ることはないが久世家が似たよな居酒屋をしていることもあって社長が嫌がっているのだといっていた。売上は久世のほうが上であるため、抵抗策を作るが空回りを起こしているのが現状なのだという。堂安と俺はテーブル席へといった。客はまだ多いとは言えないがそこそこいるのだ。
「決まったものを出しますから待っていてください。」
「わかった。有難う。」
堂安と俺の分のビールが出てきた。乾杯をして飲んだ。仕事が終わった時に飲むのはやはりうまいなと感じる。堂安は丁寧に飲んでいる。主がいるわけでもないのに・・・。堅苦しい関係を続けているのはいずれ決裂を生むと思っているのだ。机には出しまき卵、焼き鳥の盛り合わせ、サラダが並んだ。手を付ける。
「堂安はこの仕事を辞めたいと思ったことはないのか?」
「お父様の時はありました。何時も命令で嫌だったので・・・。ですが、貴方は違うのでやめたいとは思ったことはありません。」
「そうか。俺がか。」
少し話をしていると堂安と似たスーツを着た男性が立っていた。
「お待たせしました。刹那様。」
一礼を堅苦しくしている。堂安よりも堅苦しさを感じてしまうほどだ。数多は好まないのもわかるが・・・。
「阿部、すまないな。飲んで帰るからと数多に伝えておいてくれ。」
「もうお伝えしてあります。数多様からも伝言があります。アルバイトをして帰るため、遅くなるといっておられました。」
「そう。有難う。」
堂安は阿部に車のカギを手渡した。何時もの時は電車で帰るのだ。タクシーを使うこともある。最悪久世に帰れなかったら数多と一緒に住んでいるアパートに泊まる。そういうことを勝手に決めているのだ。2人の独断を下手に2人は伝えないため漏れることもない。阿部は再び一礼して去って行った。
「数多様もアルバイトをなさっているんですね。」
「あぁ、俺が大学入ってやっていたからそれを見てな。ただ条件として久世グループじゃないところとしているんだ。コネでバイトするのも嫌だったから。」
愚痴をこぼすように言った。ため息をついても嫌味を言う人間なのこの場にいないのだ。なんていい空間なんだと思ってしまう。
「それならキチンと社会勉強をなさっている証ですね。」
「数多も久世を継ぐのなんて嫌なんだろうよ。パワハラとセクハラを家族間で黙認しているんだから。」
無言でうなずいている彼のしぐさが全てを表しているのだと心底感じる。そこの家の息子だと胸を張る気もない。辱めを受けているだけなのだと。