対話と会話
俺と緑谷は経理に行くわけでもなく、人事に行くわけでもない。個室を持った人間に直接出す方法を考えたのだ。エレベーターに乗っていても気まずいなんてものはない。迷宮入りの迷路の出口を教えてもらったようにウキウキしていた。隣の緑谷もおじけづくことはない。廊下を足音を立てながら歩いた。此処にいると教えているのだ。目当ての部屋の前に来た。ノックすると偉そうに豪快な声が聞こえた。
「失礼します。専務さん。」
「なんだ。なんで君たちのような下っ端が此処に来る必要がある。」
「必要があるのはこっちですから気にしないください。」
俺と緑谷は窓を見つめて対応した。専務について長年上に上がることのなかった人間らしく、椅子の下に足を組んでいる。悪びれる感じもなかった。権力にうぬぼれた証なのかもしれない。スーツは飾りであるように人も飾りをつけている。俺はスーツから退職届を出した。緑谷も同じように出した。
「どうして俺に出す?上司に出せ。」
「俺たちの上司はろくな人じゃないですから。それにこいつの上司は捕まっているのに、いまだに部長代行も出さないなんて判断が遅すぎますよ。俺も上司のくだらない行動を見てきてあきれていますから。それなら貴方に出すほうがよっぽどいいとなりましてね。」
彼の言葉は痛みを促すような言い方だ。その上、ニタニタと笑っているのだ。むしろ、抵抗する道をふさいでいるようにも見える。いや、ふさいでいるのだ。上司の言い訳を嫌うのは奥村だけではないのだ。社長が捕まっているからという前に上の判断はきっと関与していないだろうと思っているので、判断が下されるまで待つのだろう。
「君たちは経理のエースといわれていた久世君と人事の鬼といわれていた緑谷君。どうして・・・。」
今更の顔色をうかがうような態度をしてきた。専務というよりかは名ばかりの行動をしてきて隠すような形だ。
「此処の会社はもう将来性はありません。社長が関与しているのは明らかでしょう。その金が暴力団にいっていたと知られた今、救いようなんてありませんよ。」
「そ、それはだな。きっと出来心なんだよ。」
「出来心と言えてしまうのは知っていた証ですよね。下っ端はそれをかぶるのを知っておくべきですよ。」
俺はソファに座りながら言った。専務のほうから話し合いを求めた形だ。人事をしていた人間がいること。経理をしていて客観的に見る方法を知っていて人の扱いを熟知していることもあるのだろうか。
「話し合いはしません。ただ、専務の愚痴を聞いてあげますよ。俺たちはそれくらいの恩を返さないとなりませんから。」




