飲み会の場
堂安の過去を掘り下げようとしないのはつまらないことだと思っているからだ。仕事だけをこなせとも思わないのだ。ある程度知っているほうが動けるようになるのだろうと。
「貴方のことを守るのが役目です。それは変わりもしない事実です。」
責任を背負った上に戦うときの覚悟を隠し持っている。堂安はこれだからいいのだ。嘘偽りのない姿を見せるのだ。数多も嘘をつかぬように教えているのだ。数多は大学で詐欺を働いて稼ぐことを言われたらしいが断ったらしい。そんな人から奪うほどに簡単に得られるほど簡単じゃないことを知っていることこそ大切なのだといったのだという。
「堂安、飲みに行くか?俺と一緒なら構わないというのが決まりだろう。」
さりげなく言ってみると恭しく一礼する姿を見たらいいと思ってしまう。厚かましい態度を見せるのは嫌であると知っているので、言葉には気を付けている。
「やっぱり、お父様の執事をしていた時より貴方のほうが優しくて困ります。」
「困ることはないよ。俺は久世家があまり好きじゃないからさ。同じ態度をするなんて嫌気がさすんだ。人の上に立っているのに人を見られなくなっては元も子もないだろう。」
「そうですね。今日は飲むといってあるので数多様の執事の阿部に頼んであります。何時ものお店がよろしいですか?」
何時もの店というのは高級店ではなく、チェーン店の居酒屋のことだ。顔見知りの店員もいるほどだ。堂安のことも察してくれる対応のいいのでよく通う。緑谷とも行くほどだ。
「そこがいいな。俺の飲むぞ。」
「はい。構いません。気になさることなんてないんです。むしろ、気にしてくださっているのは貴方しかいないんです。」
駐車場がないのでいつものパーキングに止めておく。パーキングに止めておけば阿部が確認するために居酒屋に入ってくるのだ。スーツの集まりなので不思議であると思わないのかあっさり言えば入れてくれる。開けたばかりの店に入れてくれた。
「久世さん、久しぶりですね。前来てくれた時は確か緑谷さんと堂安さんでしたよね。」
「よく覚えているね。俺は忘れているかな。」
「これが商売なんでね。何時も用意しますので席に座って待っていてください。」
丁寧に言っているが、彼も紆余曲折あって今此処の場所にいる。俺が久世の家の出だと知ると嫌がっていたが、対応の違いに驚いたのか、俺と数多、緑谷、阿部はあっさり入れるのだ。ただ、俺が一緒であるのが条件で笑顔で対応してくれるのだ。