限界の勝ち
生き物ですら粗末に扱う人間が上に立つ立場にあってはならぬのだ。口では豪語するだけなんて簡単なのだ。嘘偽りを言ったとしても証明する方法さえ見つかれば解き明かされてしまう。それでも隠そうと悪あがきをする愚か者。
「あのー、犬なんて名前だったけな?」
「とおるだよ。何処かの通りに捨てられていてさ。かわいそうだとか言っていたじゃんか。学校帰りでね、見つけて此処に連れて帰ったんだからな。」
2人は鍵をちらつかせている。俺に意味を問うっているのではなく、俺が数多に渡すつもりであることを察しているから言ったら邪魔になると思って、動かしているのだ。夏目が此処を出て行ってから時間がかかっている。
「数多、渡すものがあるんだ。」
かすれた声は小さかった。俺は起き上がり別のところに置いてある鍵を取り出した。そのカギで引き出しに目を付けた。この引き出しは夏目が買ってくれたものだ。親なんて仕事が重要だの言って入学式にすら顔を出さなかった。数多の時もそうだった。だから、俺が在校生として出れるように担任にせがんだ。最初は相手にしてくれなかった。久世家の方は毎回お見えになっていると聞いている。と。噂だけで何もないのであるから。それで在校生として出さしてもらった。大役じゃないほうがよかった。夏目にばれるのだけは恐れた。単に恥ずかしかっただけだ。
「数多、この鍵は持っとけよ。俺の大切なものは必ず、此処に入れるから。」
「なんで奥村君と緑谷君がもってるの?」
「夏目ももっている。俺がもっていてほしい人間にしか渡していないから。」
ありふれた鍵が俺の全ての思いを抱え込んでいた。豪邸に生まれて恵まれているとも思ったことはなかった。金遣いが荒いのはもっぱら自分のために使っているのだと聞いたのは夏目からだった。長男なのだから知っておいたほうがいい。落胆することがあれば捨てることができるのだと。気楽に過ごしたのだ。
くだらない思い出を語った。数多は総菜を最後になっており、いじっていた。
「兄貴、俺が食べてしまうぞ。」
「構わないよ。」
彼のがっつく姿はあまり多くは見られない。そう思うと楽しかった。俺は事件を解決するために動き出している。悟られないようにするのも難しい。テレビを見ると問題を取り上げている。ストーカーだのひき逃げなの殺人だの沢山の情報が耳の中を通って通り過ぎていく。その情報を日常として思ってしまっているのだろうから。画面でのやり取りも限界がある。




