ざんげと道しるべ
夏目は変わらず心配そうな顔を毎回のぞかせる。親父やお袋が話していることを毎回のように否定しているのだ。単なる気休めだとしか思えなかった。緑谷や奥村に話したことで解決するのもでもない。
「俺のことはほうっておいてくれよ。」
ここの屋敷にいる家政婦も親父の意見に賛同するだけだ。職をなくしたくないからだ。俺が強く言っても厳しい目を向けるだけの人しかいないのだ。
「そんなことはできません。」
「何でだよ!」
「私はあくまでも久世家に仕えている執事ですが、一方は刹那様と数多様の教育係に重きを置いていますので、正しいとか明瞭でないことをお教えするつもりはありません。一般常識を持っていないと困るのです。旦那様の意見が間違っているのを伝える必要があるように思えるのです。」
そのときの話は俺にとって長い言い訳にしか聞こえなかった。家にいても敵、学校に行って敵だと。ただし、緑谷、奥村は別であったが、詳しい事情なんて話す気もなかった。俺がおろかだったのだと。高校は久世にもあるが、親父たちの話を聞いていく気もなかった。別の高校を探すのに手間を惜しまない。学校に行けば久世の高校へ内部進学を選んでふらふらとしているやからもいる。問題を起こして取り消しになる。元も子もない話だ。俺は自動的に久世の保育園に入れられ、小学校、中学校と来た。自分の意思なんざ存在していなかった。自分の部屋にこもっているほうがよっぽど楽しい。夏目は気づいていないのだろう。
「夏目、親父が数多の部活を買っているって知っているか?」
「存じています。ただ、気づいていないだけだと・・・。」
知らなかったらきっと親父のこまにされるのだと。考えただけでぞっとしてしまう。うんざりな世界を回っているのだ。
「それならおめでたいやつはそのままにしておけばいい。」
「それはいけません。」
「何がいけないんだ。じっくり楽しいと思ったひと時を存分に味わっているんだ。邪魔をしてはいけないだろう。」
吐き出した言葉に嫌気が差す。俺は勝手に自暴自棄への道を開拓していたのだ。俺の言葉に夏目は口を出さなかった。沈黙が続いたとき、いたたまれなくなって自分の部屋から出ようとしたとき、部屋がとどろいた。
「私は貴方の味方です。」
凛とした声であった。俺の耳には届いていなかった。この出来事の数日後、俺は数多を傷つけた。
「お前は浮かれていればいい。こまでもされてさ。人を恨めばいい。」
喧嘩をしたときにいったせりふだ。そのせいで親父に散々怒られた。お前も久世の人間として胸張って生きろとか詭弁をつなげていた。散々、俺のことを影で久世にはふさわしくないだの生まれてこないほうがいいのだといっていたくせに。表では建前ばかりを言う。自分の広すぎる部屋に帰って、勉強机のいすに座った。何もする気が起こらない。ただ、立ち上がって部屋の鍵を閉めた。きっと誰も気にしない。空気のような存在なのだから。今の時間帯は数多は親父の部屋に呼び出されて慰められているのだ。夏目は大きな庭の手入れをしている。天井には柱が存在感とはと教えているようでもあった。何か引っ掛けるものを探した。見つけたのは中学の制服のときに使うベルトくらいだった。いすを台にしてたち、ベルトを柱に引っ掛けた。親父やお袋に被害がこうむればいいのだ。そう思った。勇気なんてものを考えなくてもよかった。ただ一瞬のことだから。首にベルトをかけるといすをけった。これで・・・と思ったとき、夏目の叫びが遠くでした。
目を覚ますと見慣れた天井がやけに圧迫してくるようだった。
「よかったです。」
夏目の声を無視した。その隣に目をやると数多がじっと見つめていた。
「やっぱり、兄貴の友達の言うとおりだったよ。」




