昔話
数多が抱えている俺への不安を吐露したところで誰も聞き入られないのだ。もっぱら親父やおふくろの経歴を見ると誰が見てくれるだろうか。図に乗った奴らを眺めて嘘でも言っていたりするのがいいものなのだろう。今は色眼鏡をかけていないのだ。過ごしやすいに決まっている。
「兄貴、面白そうなテレビがあるから変えていいか?」
「いいよ。」
現実へと引き戻してくれるスイッチやコントローラのような存在なのだ。ビールを飲み干しては天井にため息をつく。数多が忘れるはずのないことを今、此処で代弁という形でもなんでもいいが、話しておく必要がある。
俺が中学3年の時、数多は中学1年の時の話だ。面白いくだらない話ではない。俺はただ、親父が不正を堂々とする声を聴いてしまったのだ。ドアの小さな隙間から漏れる笑顔と悪に満ちた顔をのぞかせていたに違いない。その時、俺の話が上がったのだ。
「刹那はどうします?」
「成績はいいみたいだから、久世の高校でも行けばいいんだ。まぁ、あいつは数多より劣っている部分が多すぎるから此処にいられちゃ困るんだ。」
「でも、行くといったら入れますよね。」
「入れるもんか。あんな使えないやつ。いらないよ。」
親父の吐き捨てるような声に心は古い雑巾のように搾り取られた。成績だけを見たが、数多に劣っている部分があるのは事実だ。あいつはスポーツが好きで、野球ではエースで4番を任されたことがある。ライバルの言っていることも気になった。
『あれだろ。久世数多ってコーチが久世っていうグループの傘下にあるような会社の社長がしているから入れないと外すとか言って脅されたって聞いたことがある。』
数多は親父の手によって地位を築き上げられたのだと思った。俺は部活は小さな部室しか持たないような部に入った。居心地がよかったのと奇異な目で見られるのが嫌で仕方なかった。無論、のちに知った話だが、部員は親父から金でついただけだった。俺の中で生まれるのは不信感だけだった。
「刹那様、大丈夫ですか?うなされているようでしたよ。」
その場において夏目だけだった。数多はおめでたい奴だと思った。親父の駒として使えると判断されたのだから。
「夏目、大丈夫だよ。数多は?」
「部活で遅くなるとのことです。」
「そう。」
このころは今ほど仲がいいなんてことはなかった。ただ、過ぎていく日々にいるだけの存在として思っていなかった。教育係の癖にお節介なほど気にするのだ。うっとうしいと思ったこともある。




