つぶれた缶
堂安は情報を伝える時は毎回抜け目がない。黄劉会のことを調べるのだって伊達でわかるようなものでもない。酒で胃を満たしていることになっているが、構わない。窓からのぞくように光が漏れていた。ぼおーといていると廊下をバタバタと走っているかのような音が響く。ドアがノックされた。
「兄貴、いるか?」
数多の声は寂しげで悲し気で暗いものに追われたかの感じだ。俺はゆっくりと椅子から立ち上がり、開けた。彼は顔を見れたことで安心したのか戸惑ったようなそぶりも見せていた。
「兄貴は夕飯食ったのか?」
「まだだよ。夕方から此処にこもっていたから食べていない。」
机の上にはへしゃげた缶が居心地が悪そうに立っていた。分が悪いのだ。俺は缶をもってリビングに行った。
「出来合いの総菜を買っていたんだ。別にさ、残ったって冷蔵庫に入れればいいだけだから。」
口では普通を装っているが、笑みがぽろぽろとこぼれている。つぶれた缶をゴミ箱に捨てると、新しい缶を出した。
「前に兄貴が買っていた奴だよ。それかワイン飲むか?」
「俺が言うべきじゃないのか。」
「そんなの関係ないよ。何飲みたい?」
甘えたような声にも聞こえる。ノイズとしてテレビが流れている。過ぎ去れているのだ。忘れるなんて都合のいいようにできていないのだ。それならフラッシュバックというものが存在しないことになってしまう。数多には消えない過去があるのだ。知っていながら話すのは嫌だ。壁にかけてある時計は何分か前に進んでいる。けれど、忘れていたかのように遅れだすときがあるため、今は置物のように居座っている。テーブルには豪華に並んでいる。プラスチックがおこがましく見つめているようでもある。
「ビールを出したよ。チューハイを飲んでたみたいだからね。」
「有難う。」
数多から受け取った缶を握ったが、つぶれることはない。使い古した紙のように捨てられるのだと。
「兄貴、今日、休みだっただろう。何処行っていたんだ。」
「本屋とかだよ。時間があると読みたいと思った本でもと思ったけど、手持ちが少なくて断念したんだ。」
「そうなんだ。俺は眠くなる講義だったから、少しだけ寝ていたんだ。」
威張ったような態度をとった。普段はしないことだが、胸を張った姿が何処かうらやましかった。俺は数多から目をそらして総菜へと箸を伸ばした。俺は会社を辞めて、新たな会社へと移るべきなのだろうかと。
「数多、俺さ、新しい会社に行くべきかな?」
「誰からの誘い?」
「緑谷。」
「なら、行くべきだよ。俺はどっちでもいいけどね。」




