評価とは
次の日、朝になると数多は朝食を食べていた。授業があるからだ。好きな講義があるらしく、いつになく乗り気だ。
「兄貴、今日は仕事なのか?」
「まぁな。」
曖昧な答え方しかできなかった。数多はそれを知らぬ顔をしているのかわかっていても知らぬふりをしているのかわからないが、その行動がうれしかった。さっさと簡易な朝食を食べ終わると元気に出て行った。俺は少し高めのスーツを着ていたからそう見えたのだろう。何時だったか親父が買ってくれたのだ。有名な仕立て人によって作られたものなのだ。生地が安かったからそこまでしなかったといっていたが、十数万したのは確かだ。アパートを出ると恭しい態度の堂安がいた。黒塗りの高級車だ。何時も見ている車とは違って見える。
「待たせたな。堂安。」
「そんなことありません。実家にお戻りになって夏目とお話したいんですよね。夏目には事前に伝えてあります故に心配をなさらくていいんです。」
「有難う。堂安はやっぱりできる奴だな。」
俺がほめるとほめられなれていないのか照れ臭そうに下を向いた。車に乗り込むと安心した心地になって寝込んでしまった。気づくと豪邸にいた。実家についたのを堂安が伝えに来たのだ。
「夏目だけの時間帯を選んでおります。応接室で話ができます。」
手配の速さはどの執事より飛んでいた。堂安が執事になってから実家に帰ったことを知られることが少ないのだ。久しぶりに降り立った地は居心地の悪さがにじみ出ていた。玄関に向かうと堂安と同様のスーツを着こなしている男性が立っていた。
「おかえりなさいませ。刹那様。お待ちしていました。」
「夏目、すまないな。突然、話がしたいなんて言うことを言い出して。」
「私はうれしいのです。此処に来て私とだけ話しがしたいといってくださったことが・・・。」
彼の目は潤んでいた。親父の執事をして長年しているが、俺が出て行くといった時とても寂しそうな顔を見せていたのだ。それを覚えているのだ。飛び出すように出て行っても止めることはなかった。それが心使いだと知っていたから。
「応接室に入っていると誰も入らないのが決まりになっています故。そこに付け込んだ限りです。」
「お前らそろってずるがしこいな。」
「うれしい評価を有難うございます。」
笑みには戸惑いもないのである。2人の執事には頭が下がるばかりである。そんなの口に出したくらいでは伝わらないのだ。言葉で表すだけがすべではないのを俺は知っている。




