現実と抵抗
高棚部長が言ったのはさほど無理難題ではなかった。目をつけられていない証拠であるように思えた。ただ、それはあくまでも個人の考えに過ぎないのだと言い聞かせているのが都合がつくものなのだ。実際に起きたときに誰かを攻め立てるような無駄な労力を失いたくなかった。阿久津はそばで眺めていた。監視役に徹したように映った。カメラのレンズを動かすような動作がかすかに感じた。高棚部長には会社内である疑惑がある。経理を担当するのが明らかに異様に長すぎるので、社長が知らぬうちに横領を行っているのではないのかということだ。面白くないと思っている部下が言っているだけだと言い切るのに何もな
いように思えた。
「阿久津さん、頼みますよ。」
阿久津は高棚部長を見ているようであるのだ。時計と睨めっこするときのほうが多いため、人事によればいずれやめさせられるのではないかといわれている。責任感にあふれたタイプではないのだ。数字と人を見ても絶句するだけだ。経理で落とせるのではないかと思い込んでいるやつもいるのだ。会食だといって明らかに違うことに使ったのだとわかることだってある。作った領収書を見せ付けられてもうそだと言い切るのが厄介で仕方がない。政治家たちがしているようでもあるのだ。営業の人も知っているはずなのに知らぬふりをしてしまう。たちの悪さが見えすえている。抵抗するのも阿呆らしいのでやめる。そのため、決まったやつが営業へといって話すのだ。難儀な話だと上の空で対応する。
「部長に異変なしかな。まぁ、簡単に顔は出さないか。」
「阿久津さん、手を動かさないといけないですよ。部長に目をつけられているかもしれないです。」
「かまわないよ。俺にとってはまだ一握りしか進んでいないんだから。そういったところで無駄なんだけどね。」
薄ら笑いをする阿久津を思う言葉もない。一握りだと思うのは単純な考えを持っているからであろうから。最終的な答えを探すほどの無駄な抵抗を好むのだという。果てない夢に費やすのことがわからない。
「理不尽上等っていっても無駄なんだろ。理不尽な世の中に入って染まったんだから終わりに近いだろからさ。」
パソコンで打ちながらいった。ブラインドタッチをするのはパソコンをいじっていた証なのだ。阿久津を眺めながら就業時間が終わった。阿久津は残業することになったのだ。ここまでつけが回っている。大きな飾りのようなビルを出た。ついてくるがたいのいい男性に声をかけた。
「ばれているぞ。堂安。」
「かまいません。刹那様にばれているほうにはお父様は苦言を申していません。むしろ、ばれろといわれております。」
高めのスーツを着こなすのはやはりがたいのよさだけではすまないのだろう。
「名前で呼ぶなといっているだろう。嫌いなんだ。」
「申し訳ありません。つい、言ってしまって・・・。数多様は名前で呼ぶようにおっしゃるので・・・。」
「数多のことはちゃんと見ているんだろ。親父がかなり気にしている。」
「それは違います。貴方に久世グループをついでほしかったようです。今も数多様がついで扱いとなっております。」
堂安はいつも丁寧なまでに家族の実情を言ってくれるので見通して扱うことができるのだ。ありがたい執事というべきであろうか。邪魔なのか今でもはっきりしないのは事実だ。