真実とは、嘘とは
俺は朝起きると仕事がないことが分かってベッドに戻った。家にいたところで何もしないのはわかっている。数多は大学に行ってしまった。俺は簡単な衣装に着替えてのこのこと出ることにした。町は騒がしいのだが、端的に見てしまえば一部が騒がしくしているに過ぎない。通りすがりにあった本屋に入った。最近は本が売れないといわれているのも相まって書店が消えていくのだ。ネットやらに頼っている証なのである。突然、電話がうるさくなった。
「もしもし。」
「俺だ。奥村だ。」
「なんだ?」
「お前の会社の横領の件のホシが分かったからあって話したいんだけど、お前何処にいるんだ?」
奥村に対して全て素直に話すと笑みをこぼすような声も漏れたりしている。数分後に近くの喫茶店というよりかカフェに会う約束をした。奥村が来るまでコーヒーを飲む。うまいコーヒーでよかった。苦味や甘味が感じられないとよくないと思っているので、ダイレクトに感じるのがうれしい。コーヒーに詳しいというわけでもない。よく飲むからそれなりのこだわりが浮かんでしまうだけなのだ。単純な感じなのだ。奥村は急いだ様子で現れた。きっと待たせてはいけないとでも思ったのだろうか。
「ごめんな。会社に行ったら緑谷に会ったから話をしていたらお前は来ていないと聞いてな。経理は休みになっているといわれたからさ。それで連絡したんだ。」
「そうか。まずは落ち着けよ。俺は休みなんだし、緑谷から誘いを受けている会社に行くべきか悩んでいるんだ。」
「その話は聞いたよ。行くべきだよ。俺はお前なら何処に行っても通用するのを緑谷から力説されたんだ。関係ないのに・・・。」
奥村に口早に言ってしまったのだろう。ホシが見つかったとか言っていたからそれを伝えるだけなのに予想外な展開になっているのが目に浮かんだ。
「何笑っているんだ?」
頬が緩んでいるのに気づかなかったが、指摘されて真顔っぽくして見せた。
「まぁ、お前が何時も通りで安心したよ。それで横領していたのが高梨だ。それと社長だったな。社内で話題になっていた人間がホシなんだから笑える話だと思ってな。」
高梨と聞いてぴんと来なかったのは高棚部長などとあだ名で呼んでいた所為もあるのだろう。社長が関与していたのもわかったのだ。
「それも暴力団に口止めで金が回っている経緯がわかってな。新たな問題で警視庁は荒れているよ。」
「そりゃ、大変なことだ。」
「他人事のように言うなよ。」
怒ったように言ってはいるが、絡んでくれる俺に喜んでいるのか少し柔らかい言葉が混じっている。




