決定的とは
廊下に出てみると緑谷が待っていたかのように見ていた。俺が来たのに気が付いたのか、少し落ち着きを取り戻したようだ。
「用事は何だ?」
「いや、普通はさ、流さない話なんだけどお前だけ特別な。明日から2日休みだからさ。その時に奥村が堂安と阿部に会ったらしいからそのことについて話したいといっていたからそれを伝えようと思ってな。それと・・・。」
何時もの緑谷とは違う何処かそわそわしたような雰囲気が漂い始めた。落ち着きなく目を揺らしている。飛んでもないことを言ってしまえそうなくらいだ。
「俺さ、此処やめて別の会社から声かかっているんだ。その会社に経理もほしいとか言っていたからお前もどうだ?一緒に行かないか?」
「そうだな。此処の信頼は地に落ちただろうから。救えないのは事実だ。数多にも言うかな。決まったら。」
「お前と俺は決まるよ。声がかかったのは大手ではあるが、大ごとにするのは嫌がるからな。」
世間の喧騒だとか雑踏だとか言葉を変えれば済むと思っている政治家や会社のトップもいるのだ。最後には他人の所為にして非を認めることもない組織の腐った具合を見守るほどお人よしでもないのだ。俺にとっては経験値を上げるための材料に過ぎない。頭の中で考えることは限られているのかとも思ってしまう。此処の会社の社長も権力にうぬぼれてしまっているのだろう。愚かで卑怯だといくら揶揄しても効き目がない。自分の犯したことについても認めることができないのか。いっていることとやっていることの矛盾の追求をされたときに勝ち目のない争いをしておくのだろうか。何処まで愚かさを見せつけているのだろうか。
「久世、久世・・・。」
「なんだ?」
「お前、どうした?悩み事か?俺は聞くぜ。いつでも人事でもこい。俺とお前の仲は知られているらしくてな、抵抗する分価値があるタイプだってさ。」
「ご多聞連になってはいけないと思ったのは幼いころだから歴は長いな。まぁ、仕事に戻るわ。」
緑谷のいえたことに対するすがすがしい顔を見ているとよかったと思う。社長が気に食わなかったのは同じなのだろう。机に戻ると隣の阿久津がメモを残していた。
『高棚部長は解雇決定であるとさっき上の連中が言っていた。
社長も責任を取るかが見ものだな。
見物人は見ているだけがいいものだな。』
阿久津らしい何処にも無邪気さも感じ取れるものであったが、誰かに見られたら嫌なのでメモを破って捨てた。見られたら嫌で仕方ないから。




