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ノートに書かれていた通りに従ってみることにした。誰だか明かされていないのはわかりやすいからであろうか。納得するに決まっているからであろうか。少し早めの電車に乗って行った。会社にはまばらに来ていた。阿久津はいつもギリギリである。部長もこの場所では上であるからということでゆっくり来る。わざと渋滞にはまっているのでと問われたときもあったほどの疑わしい行動を繰り返す。
「今日はどうした?早いな。」
「いや、ちょっと気になることがあってな。探るのに仕掛けるにはどうすればいいかなと悩んでいるだけさ。」
「横領だろ。高棚部長は決まった料亭に行くらしいと聞いたことがある。社長もついていくらしいからかなり規模が大きいな。まぁ、警察も動いているのも事実だ。二課とかいうとこが疑いをかけている人間を絞り切っているという噂が社内中が充満だよ。終わったよ。この会社も。」
「そうだな。余計なこと聞いたな。」
経理にいて同期になった奴と話をしたことはなかった。扱っているものが別であることも含まれているのだろう。横領の話は経理だけでは収集がつかなくなって誰かが内部告発をしたのだろう。隠し続けるのには必ず限界が訪れるものなのだ。大手企業であるため、週刊誌の記者はきっと逃さないだろう。俺は勝手に思いを巡らせていると続々と人が入って来た。此処の主は休みなのだという。
「高棚部長休みかよ。きっとばれたんだぜ。」
阿久津が遊んでいるように笑顔を見せた。いたずらを仕掛けた子供のように消えない無邪気が残っている。
「内部告発した奴が人事にいるって話だよ。」
「人事?」
「そうだ。それもかなりのベテランがやったらしい。幹部になるともいわれていた人でつぶしにかかったんじゃないかっていう噂。けど、社長も裏預金が見つかったらこの会社は終わるな。」
社長候補を育てていたのらしいが、同じ手口をしては株主には顔向けできないのもわかっているのだろうから無理である。やめる奴が増えるに決まっている。幹部同士のつぶし合いをしたとすれば真実を嘘を作り上げたとしたらとも考える。そんなのを繰り返したらきっと何も残らない争いをしたことになる。そんなくだらないものにまとわりつきたくない。
「久世、人事の緑谷が呼んでいるぞ。いってやれ。」
「わかりました。」
緑谷は高棚部長のことについて話に来たに決まっている。状況の説明や横領のことだから休暇とかが増えるのだろうとのんきな考えを進める。




