過去と歩み
本題に入るために勢いづける意味を込めて奥村は手をバチンとたたいた。はじけた音は乾いた空気じゃなくてもいいのかもしれない。
「伊丹の会社のこと知ってるか?どうせお前の親父のところに行っても黙るかはぐらかすか言い訳か人の所為にするかの対応しかないからな。お前らに聞くのがいいと思ったわけさ。誰が言ったかなんて言わないから。」
「わかってるよ。お前のことはな。伊丹の会社はITをしていたんだ。毎年、新たなアプリだとか作っているのを不自然に思っていたんだ。たまたま俺は親父の話を聞いてがっかりしたよ。手腕のない親父ならやりかねないと思ったから出たんだ。」
「何を聞いたんですか?」
若い刑事になりたてか初めて大きな事件にかかわったのかはわからないが、張り切っているようには見えた。戸惑いも消えている。緑谷も気に留めない。数多も話すタイミングを見計らって話すに決まってる。
「産業スパイを置いて中小企業やライバル会社からのアイデアを盗んで、自分の会社に使っていたんだ。それを知っているのは数知れてる。」
「そうなんですね。恨みやつらみ、ねたみは複数あるとみていいですね。」
声をかけられてうなずいた。テーブルに散らばっているようにあるおかしをつまんだ。ビスケットやらチョコやら沢山あるが買いすぎだと数多を怒ることは俺はしない。数多は俺に巻き込まれただけだから。
「数多さんは知ってましたか?」
「俺は兄貴が親父に久世の高校に行かないといっていたのを聞いたときに兄貴が不審に思っていることがあるんだと思った。それで俺も高校を変えて同じアパートに暮らすようになってから聞いたんだ。」
「どうして黙っていたんですか?」
「やめろ。それを問いただすのは久世の心を傷つけることなんだ。厳しい決断を自ら行って今に至る。過去を掘り下げすぎるな。」
「いいよ。奥村、聞かれると思っていたよ。俺は数多を守りたかった。親父の会社にいて社長になってくれればと思った。それで会社やグループを正しい方向へと変えてくれるのを望んだだけ。数多が俺の行動を見てそう思ったのならそれも正しいから。」
数多に黙っていたのはグループをつぶすという意欲はただの空想であったのだ。嘘をついて出たのは親父が俺の全てを否定していたのを聞いたからだ。おふくろもそれに賛同していた。メイドは取り繕うように言っていたのを中学の俺は聞いてしまった。無様な人間なのだと確信して出ていくことにしたのだ。




