祈りに託す
阿久津の手は震えがあるわけではない。俺を殺すというレッテルがついてないだけゆとりがあるのだろう。暴力団であった過去を変われるわけじゃない。ずっと付きまとうのだ。加えて前科であったことが知られると普通に扱ってくれない。だからこその決断なのかもしれない。西條が阿久津に見えないように拳銃を出した。奥村の影に隠れたのが見えた。きっと、角度を見るのだろう。腕に自信があるとかではない。初めて握ったようでもないのだ。うまく当てに行く。俺は少し下がった。確実に中に入りこんでしまうとダメなので少し角によける。飛んでくるはず。俺の動きよりも阿久津の動きのほうが心配だから。会話をしている。そのうちに打つのだろう。何時しか乾いた発砲していた。拳銃に当たったのだ。騒がしくなっていく。応援に来ていた刑事とのやり取りをしている。飛んで行った拳銃はたまたま俺の前にあった。予定が進む。俺は拳銃を握った。重さもない。これが憎しみにも対応しているのかと。数多と目があった。
「兄貴、何やってんだよ。」
「俺を連れていくのは待ってくれ。久世と話がしたい。」
刑事に言い放った。彼の言葉は是が非でも会話がしたいといっているようだ。刑事たちは隣に立っていたが、少し離れた。逃げる気もないこと。そして、今の状況を把握したこと。
「君は死んではダメだ。家族がいないといったけど、嘘をついたのか?」
「俺は中学の時、親父に言われたんですよ。必要のない人間だと。それに乗っかるメイドもいたんです。その場にいた執事も。親父の言った言葉に右へ倣えとした大人に絶望したんですよ。」
俺は打ち明けることにしたのは、俺自身への最後の戒めの気持ちもあったのだ。それは数多にも理解されるだろうと思っている。奥村は反感するだろう。
「君はそれは聞き間違いじゃないのか?」
「聞き間違いなんてないですよ。俺はその時、扉越しで聞いていたんです。数多の成績は親父の金で買われて加工されていた偽りを信じ切っていた親父が嫌だったのもあるんですよ。」
「兄貴・・・。それじゃあ兄貴の成績は加工されてなったのか?」
つぶやくように言うしかないのか聞こえるか聞こえないかのはざまの声で言った。
「俺の成績は買われていなかったんだよ。試しのつもりだったのかもしれない。ただ偉そうに部活は買ったんだよ。」
俺の声は遠くで言っているように、周りの声も聞こえないのようになった。この黒い物体が全てを解決してくれる。




