闇を記憶
俺の前にいる人は堂々と拳銃を振りかざしているが、良心ってものがなかったわけじゃないだろう。復讐に時間をつぶす理由にもならない。心の中で嫌気がさしたのかもしれない。転職をしてきっとわかっている部分もある気がする。
「久世、お前は怖くないのか?御曹司という暮らしをしてきて・・・。」
俺はさえぎるように言った。口早だった。それくらいの思いなのだろうと思った。
「俺は御曹司として暮らした記憶なんてありません。親父やおふくろ、メイドの人達にバカにされてきたんです。いらない人間だとまで言われたことがあります。そこから自殺を考えて未遂で済んだときもあります。だから、俺にとっては何もないんですよ。阿久津さん。」
見せびらかすような金の使い方は何を生むのか。ただ、一定の欲求にこたえているだけであって満たされないのを知っている。その行為のおかげで新たな欲求を満たそうと暴走するのだ。間違いを犯しても自分の中で納得してしまっているのだ。それくらいの覚悟しかない。
「お前の人生は捨てられるほどなのか?」
「貴方もそう変わらないですよ。復讐をして自分の人生を捨ててるじゃないですか?貴方に揶揄されたりする権利もないんですよ。」
俺の乾いた笑みはいったい何処へ向かっているのだろう。進むところまで行ってしまったのだろうから。胡散臭いものを言う輩にはわからない。言葉を知らぬのにいったい何処で勘違いして語るのかと思ったのか。人の人生には道があるといっている。確かに目の前にあるかもしれない。崖に近づくものであるかどうかなんてわかるのだろうか。単純なのかといえる。
「完璧という人間はいないが、救えない人間は助けを求めないと来ないものなんだよと思っているのだろうから。まぁ、いいんじゃないのか?」
「貴方も打ちたければ打てばいいんじゃないんですか?俺には家族もいないんですから。」
家族は捨てたと思った。漫画カフェへ行っても、ネットカフェへといっても寂しいだけでは済まない何かがあったのだが、時間が経つうちになかったことにしたのだ。憂いの気持ちもあったのも忘れてしまった。数多はきっと心配をしているだろう。奥村と西條に伝わっていることを考えると。奥村は情報をうまく流してくれた。嘘を言うことはなかった。きれいごともあまり言うなとは言ったことはなかった。数多には自然体に生きろと伝えたのだ。わからないものばかりではないのだ。世間に飲まれるのは悪いことじゃない。ほどほどにしろと思うのだ。




