光を得る
その幹部はいつになく真面目な顔をしていた時期があった。たぶん何処かで殺されるっていうのを察していたのかもしれない。幹部の中で頭のいいひとだと俺は思っていたからだ。何時も騒いでいるだけの輩とは違った。拳銃に埋もれる何かにも気づいていた。だが、彼は物静かなので何故間違えてしまったのかと聞いてみたかった。質問をしようとしたときに空気が遮っていたのだ。彼の笑みは寂しさと此処にいてはいけないというような影を持ち合わせていた。勇気といってもちっぽけなものがなかったことを不安に思うことはなかったのだ。たまたま、だった。彼が自分から話した時があったのだ。
「俺が此処に来たのは高校の時だよ。進学校とかさ、言われるようなところで缶詰のように勉強させられる。何に見せられたのかはわからなかった。中学校の時の友達が暴力団に協力していた。暴力団と知らずにバイト感覚でやっていた。それに誘われた。」
中学は久世グループに買収される前の時だ。最初はバイトだった。だが、経験を積むうちに拳銃を取り扱い始めたときに逃げようとした。やめるといった時にこのことを話すと脅されたこともあった。親父が力を及んでいたこともわかったのだ。新しいバイトに代わる上に普通のバイトより金が良かったこともあって長く続いた。高校の時に許可されていないバイトをやったことで勉強よりも先に社会を知った。それも習うはずのない闇のような真っ暗なもの。彼ののめりこみは学校でも不思議がられていた。そして、大学に上がる時に声をかけてきた大学があった。それが久世が運営する大学だった。大学院まであるような大きなところで偉大な成績を持った人が世界で活躍しているとパンフレットに書かれていた。大げさなほどの謳い文句にも思えた。待遇は決まっている。金を全て免除するので来ないか?疑いをかけるほどの内容を言ってのけたのだ。
「今では後悔してるよ。単なる友情だとしても、暴力団にかかわるようなものに加わっていることもね。今いる子たちは自分の意思で入っているんだから元も子もないよ。世間から毛嫌いされるのも承知の上なんだから。全く可笑しいよ。」
彼の笑みを浮かべているかはわからないが、日差しを受けて顔を見ることができなかった。そして、子供を失い、最愛の人も失ったのだ。誰にも聞こえない叫びは薄れていくだけなのだと知ったといっていた。政治家のみじんもない共感の心を見ているうちに・・・。




