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ⅱ. 足りないお腹





―――よっこらしょっと!





「ふぅぅ〜。よっこいよっこい。」


岩の上に腰かけたその何者かは、美味しいものでも食べたかのように目をとろけさせながら午後のひと時を満悦していた。



「今日は非常にいい食事をした。非常っていうか非情だな。俺ってば、ガハハッ」



とまあ冗談も非情なるその何者は渦中のあの茶色毛のオオカミだった。



「しかし良くやったな。今日は。母親ヤギにうまく化けた。声はチョークを食べて高くして手を見せろと言われたら小麦粉で手を白くした。見事に引っかかってくれたよ。俺ってうまいな。」




オオカミは騙し得た子ヤギ六匹を平らげて身もプライドも実に満足していた。



よほどお腹が空いていたのか六匹を丸呑みしたオオカミの腹はパンパンに膨れていた。



その腹をひと撫でするとオオカミはう〜ん、と一声唸った。


その唸りは疑問からくるような首をかしげたものだった。




「足りない。」



腹がパンパンに膨れ、満足しているはずのオオカミが言う。



「俺ってばあまりの空腹に味わうのをすっかり忘れてた。舌が満足してない。これは大ごとだ。」



そしてまたう〜ん、と一声唸ると何か(ひらめ)いたようにポン、と左の手のひらを右のグー手が打った。



「そうだ、人間がいい。人間を襲おう。人間か…。ん?そういえば、いつも見かけるあの子はいつまた通るかな。」



オオカミはある人間のことを思い出していた。



「ずいぶん前から知ってる美味しそうな赤いフードを被った人間の女の子。こないだも獲って食ってやろうと思ったけど、あの時は近くに猟師がいたから動けなかった。でも次はどうだろう?」



それは赤ずきんのことだった。赤ずきんはいつもお婆さんの所へ見舞いや遊びに行く時は森の同じ道を(とお)って(かよ)っていた。



それをオオカミは前から知っているのだ。



街の人々は森にはオオカミが出るのを知っていたので森に出る時は必ず護衛のように猟師と出歩いていた。



そのことは勿論オオカミもわかっていた。



「そういえば、今日は街で祝い事があるらしい。リスの野郎達が話してたのを盗み聞きしたんだが、その祝い事ってのはどうやらオオカミに関わることらしいな。」



噂好きのリス達は街の様々な出来事を噂して森の住民達に知らせてくれる。オオカミも人間の動向はほとんどこのリス達から得ていた。



皮肉なことにその祝い事というのはその通り、オオカミに関わることで間違いない。



それは今から数十年前、森では人間を襲う大きな恐ろしいオオカミが現れていた。



そのオオカミに街の人はひどく恐れていたが、一人の勇敢な猟師がそのオオカミを狩るために森へ出向いた。



そして、長い攻防戦の末オオカミを仕留めることに成功した。




人々はその日を大オオカミの日として祝日にしたのだ。



それ以降、その祝日は毎年行われている。




「ふふん。」



その事情を知っているオオカミは少し不機嫌そうに鼻を鳴らした。



「そうかそうか。オオカミを倒してそんなに楽しいか。偉い人間様だな。ふん。いいさ、今に見せてやるさ、…そうだ!見せてやろう!この日に人間を襲ってオオカミの恐ろしさを見せつけてやろうじゃないか!今日がうってつけだ。祝い事のある日は猟師は森に出てこないからな!」



天敵の人間に対し興奮を思い出してきたオオカミ。




「確かあの女の子はいつも不味(まず)そうな婆さんのところへ通っていたな。」




そう言うと、グヘヘとにやけたオオカミはどっこいしょっとゆっくり立ち上がった。



「グヘヘへへへ。あの女の子は赤ずきんと呼ばれていたな。グヘ。運良く見つかるだろうか。でも赤ずきんの匂いが今日はかすかにするぞ?…もし、見つからなかったらいつも通っているはずの赤ずきんの婆さんのところへ行って襲い食ってやる。どっちにしても人間だ。味は多少落ちるがな。」




そしてオオカミは尻尾をピン!と立てながら光のあまり通らない森の暗がりの方へ歩いていった。








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