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xvii. ー 吉報 ー





―ここはテニャス。



開拓の町テニャス。



もともと森に住んでいた民が移り住むためにできた町である。




この町の人は色んな職業を持っている。



革の靴屋さん、お巡りさん、花屋、マーケット、質屋に、ドレスショップ、弁護士、町役所員…と他にも様々な職業があり、皆生き生きと働き町は活気付いていた。




町の中心の広場から少し離れたところ、まだ賑わいが近いその場所に作業所がある。



そこには何人かの少ない作業員がいて、その作業員たちは車大工として働いていた。




その中の人にアッサムという青年がいた。



そう、この「森のオオカミさんと魔法使いの孫」というストーリーの重要登場人物だ。





ミイカ「アッサム!すごいねえ!こんなもの作ってしまうなんて。」



ミイカが仰ぎ見たその先に馬車が一台堂々と停めてある。




その馬車の陰からアッサムが出てくるとミイカはレモン水が入った瓶を彼に手渡した。




アッサム「ありがとう!ミイカさん。ちょうど、喉が渇いていたところなんだ。ミイカさんだってすごいなあ!俺の気持ちがわかるなんて。」




ミイカ「あんた、私をこの素晴らしい馬車と一緒にするんじゃないよ。この馬車の出来に比べたら私なんてちっこいアリみたいなもんだよ、アハハ!」




アッサム「そんなことないよ。でも褒めてくれてありがとう、この馬車を。今最後の仕上げに掛かってるところだよ。どうも、ソファがうまくいかなくて悩んでるところだよ。

ハクギンオオカミの毛皮は取れなかったからさ。」



ミイカ「あの話聞いたよ。赤ずきんちゃん大変だったんだってね。あんたよくオオカミに立ち向かったね。偉いよ。」




アッサム「いやあ、実際に立ち向かったのは俺じゃなくて、赤ずきんちゃんが魔法で…あっと、いや、そうじゃなくって。えーと、そう!俺が仕掛けた罠で追っ払ったというか逃げて行ったんだよ。銃声も浴びせてやったからさ。ハハハッ…。」





ミイカ「そうみたいだね、町中が噂してるよ、アッサムが赤ずきんと子ヤギたちを助けたって!勇敢だねえ!大したもんだよ。仕事も趣味もさ。私…悪かったよ、趣味のこと疎ましがって、あんたが仕事に集中しないからってあの頃は狩りのこと、とやかく言ったけど…今回のことで見直したよ。そのオオカミ狩りの趣味もさ」






アッサム「そう!?じゃあもしかしてまた猟に行っても怒らない?オオカミ狩りに行っても。オオカミの数がもうあんまりいないから頻繁には出ないけどさ。」




ミイカ「ああ…勿論だよ。もうだめだめ言わないよ。あんたももう大人だもんね、仕事も趣味も人が言うもんじゃあないね。」




ミイカはアッサムが一気に飲み干した空き瓶を受け取ると、もう一度くまなく馬車を見回した。




アッサムが自分で作り上げた一台の馬車の部位の説明を事細かく話していると、遠くからアッサムを呼ぶ声が聞こえた。






「アッサム兄さ〜ん!!」




そう呼んだ彼女は赤ずきんだった。



赤ずきんはアッサムたちに駆け寄ると、切らした息を整えた。



赤ずきん「ねえねえ!馬車はもう全部完成しちゃった?」



アッサム「いや、まだだよ。この座席のソファ部分のデザインに悩んでるところなんだ。あ、ママナさんもご一緒でしたか。御機嫌よう。」




赤ずきんと一緒に出掛けていたママナが合流すると、そのソファの件について嬉しい出来事が待っていた。




赤ずきん「まだソファは完成してなくてよかった!実はね、これを。お母さん、早く!」



赤ずきんは胸を躍らせながらママナの動きを急かした。


急かされたママナは、はいはいと返事をしてあるものを取り出した。




ママナ「はい、アッサムくん。これ、おばあさんから。あなたにって。」




アッサム「えっ!ええっ!こんな素晴らしいものを?凄い…見事な刺繍だ。こんな細かく繊細な刺繍見たことないよ。これを俺にって?信じられない。こんな、とっても高級なもの。」



赤ずきん「それをね!毛皮の代わりに馬車のソファに使ったらどうかなって話してたの!おばあさんと一緒にね!」



アッサム「ええっ、それは凄い!凄いいい考えだよ赤ずきんちゃん。この生地をソファに使ったらそれは凄い馬車になる。信じられない。こんな幸運が巡ってくるなんて。」



赤ずきん「それは兄さんが手繰り寄せたのよ。いい人の元にいい運が巡ってくるのよ!」




ママナ「おばあさんがね、先日のお礼も兼ねてって。この生地は随分前に繕ったものだけどもいつか何か大事なことがあったらそれに使おうと思っていたみたい。」



アッサム「いやあ、嬉しいです。本当に。赤ずきんちゃんの言ったみたいにいいことをしたらいいことが返ってきた。そうも捉えられるね。人間、悪いことはできない、いいことをしたら報われるんだな。」




赤ずきん「ここにいる人たちはみんな悪いことなんかしないからきっといいことしか起きないわよ!ほら見て、皆生き生きしてる、この町の人たちは素晴らしいわ。」




ミイカ「いいこと言うねえ、赤ずきん、あんた。酒場の店主の私も捨てたもんじゃないって思っちゃったよ!誰か!もっと酒持ってきな!」




ミイカがそう冗談を言うとその場にいた全員がドッと笑った。



アハハ、ウフフ、ハハハ



そして突然笑い声の中、それを割るかのように男性の大きな声が聞こえた。



「おーーーーい!」



一斉に皆その声の主に注目すると、その男は走っていた足を緩め、こちらに向かって歩いてきた。



「はあ、はあ…。あ、アッサム、おまえに伝達だ。」




その男は息を切らしながら、アッサムの肩に手を置いた。




アッサム「ああ、兄さんじゃないか、どうしたんだよ。そんなに息を切らして。何かあった?」



アッサムは自分の兄にそう尋ねると、兄は息を整えながらこう伝え始めた。




「アッサム・バーナーヴィロント殿へ


この度は車大工の職を全うして労いと感謝の気持ちを伝える。


この度、アッサム・バーナーヴィロント殿の携わる馬車造りの貢献とその腕前を見初め、アッサム・バーナーヴィロント殿を王室ご用達馬車大工とする。



以上をもって王室よりの伝達とする。」




兄が王室からのその伝達を言い終わると、アッサムの周りにいた町の者たちが凄いじゃないか、おめでとうアッサム!と次々に祝辞を拍手とともにアッサムに向けた。



ママナもミイカも我が子の成長のように大喜びしていた。町の者もみなアッサムの昇進に歌い、そして手を取り合って踊ったりしてまるで、お祭りのように騒いでいた。




赤ずきんは、こっそりと隠れてあの魔法の杖を少し振った。



すると、どこからともなく鳩の群れがやってきて町の上をぐるりぐるりと大きく旋回し始めた。



町の者は皆うわあ、見事だ!なんておめでたい!と大騒ぎだ。



アッサムは馬車の陰に隠れた魔法使いの孫に気付くと小さく笑い、ウインクをした。



魔法使いの孫もまた、ウインクを返した。





雲ひとつない空には円を描き続ける真っ白な鳩たちがずっと、羽ばたいていた。






おしまい







…と思いきや、後説。






あの茶色毛のオオカミはというと、気になりません?皆さん。



少し、お教えしましょうか。



あのあと、オオカミは北の方角へまっすぐ向かっていって、大きな岩穴を見つけ、そこでクマに見つからないように大人し〜く暮らしているそうです。


ちゃんとブラシも手に入れたようですよ。




という事で、本当に お し ま い 。
















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