xvi. ある〜日♪森の中〜♪
「ギャアアアァァァッ!いだい!」
禿げて毛の無くなった尻尾にふうふうと息を吹きかけ、痛みを冷ましている。
周りにはその禿げた尻尾に生えていたと思われる毛と、尻尾をはじめ体のあちこちから外したいくつもの小さな罠がばら撒かれている。
「なんでおいらがこんな痛い思いをしなきゃいけないんだ。くそ、あの婆さんのせいだ!魔法使いだったなんて…。こんな森もううんざりだよ。とは言っても。」
と、オオカミはガサゴソと、身体をあちこち確認しながら毛に絡まる物たちを手の中にどんどん回収した。
「ヘッヘッヘ。とは言っても、おいらちゃんと盗んできたもんね。お宝を。とっても小さくなっちゃったけど。見つからなかったのはこれだけ。」
両手いっぱい程に収まるぐらいの盗品。
真珠のペンダントや、金貨、小さなオルゴールなどその他…一応、金目の物だ。
「まあ、今回はこのくらいでも十分だ。これで毛並みを整えるブラシが買える。」
オオカミが想像しながらブラシを持っているフリの手で毛並みを整えていると、トントンと、肩を叩かれ話しかけてくる者がいた。
「あのう…これ。落とし物ですよ。」
毛づくろいに夢中になってるオオカミは振り返りもしせずその落とし物を受け取って、瞑っていた目の片方を開けた。
「ん?おおう、ありがとう!これおいらのだ。婆さんから奪ってきた白い貝殻のイヤリング。ないなって思ってたんだ。本当にありがとう。」
ありがとうを言い終わったと同時に差し出されたその手が視界に入ったオオカミは身体が固まった。
その手は毛むくじゃらで静かにスーッと後ろの方に引っ込められて行く。
オオカミは固まった身体をギリギリと無理矢理振り返らせると苦笑いした。
そこに居たのはオオカミの十倍もある大きな身体をした茶色毛のクマが立っていた。
筋肉が硬直してしまったオオカミの苦笑いは戻すこともできずに、そしてその恐怖ににより関節が動かなくなったオオカミはカチンコチンと動き、地面に散らばっていた盗品を時間をかけて拾い集めると、もうどうしていいかわからずにクマに敬礼した。
クマもちゃんと敬礼を返すと、そのあとすぐにグオオオオオオオ!!!と吠え声を上げオオカミを脅す姿勢を見せたからオオカミの恐怖は限界点に達し、硬直していた身体に電気が走って動き出した。
クマはオオカミをからかって吠えただけだがもともとクマが怖く、苦手なオオカミの血は恐怖で鳥肌が立ち、オオカミはその付近を走り、ぐるぐると円を描いて逃げ回った。
クマはドシドシとオオカミの後を付かず離れずで追い回すし、オオカミにとってはものすごい災難であるから笑った。
誰が笑ったというのかは、それはその森で一連の流れを見ていたリスや、鳥、隠れて見てた子鹿や、野うさぎたちや…オオカミが失態を見られたくない相手ばっかり、特にリスなんてオオカミの赤っ恥を一晩で広めてしまうほどの噂好きだからオオカミにとってはたまったものじゃない!
オオカミが逃げ惑う最後は森全体が揺れるほど森の皆が笑っていた。
いつも意地悪をするオオカミ。
お腹が空いてないのにわざと追い回してくるオオカミ。
人のご飯を横取りしてくるずるいオオカミ。
悪さを上げたらきりがないから森の皆はここぞとばかりに笑っていた。
でも皆優しいいい者ばかりだったので、逃げ惑うオオカミに、こう教えてあげた。
「ねえ!オオカミ!ここからうんと北に行った遠くの森にはクマはあんまりいないっていうよ、そこに行ったらどう?」
オオカミはその言葉を受け取ったのかもう何も言わずに大慌てで北に向かって走り逃げて行った。
そして、一悶着が終わって見ていた森の者、皆はクマとお互いにバイバイをして自分の巣へと帰って行った。