xv. ムーンライト・ハウリング
「グハァ!!!」
そう叫んだかと思うと、動き出したオオカミはお腹の方へ目をやり、自分のお腹を撫でると、違和感に気づいた。
「痛い…少し痛い…おいらのお腹に何かした?しただろうお前ら、何をした?それに赤ずきん…なんでここにいるんだ?」
オオカミのそんな疑心に赤ずきんはウフフッと笑いながら、
「あら、あなたの知らない間にここにいてごめんあそばせ。それで、あなたに何をしたかって?それはあなたの時間を止めたあと、あなたのお腹をまず切ってね、それから丸呑みにされた子ヤギたちを助け出してね、代わりにおばあさんの手にかけた美味しい料理をたーくさん、詰め込んであげたのよ。」
皮肉っぽく嬉しいでしょ?と付け加えるのを聞き終わるとオオカミはその一連の話に真っ青になった。
「お、お、おいらの、お、お腹を、を、を、き、切ったってえ〜?え、え〜〜っ!??」
オオカミはあまりの衝撃な事実に仰天させて目が回ってしまった。目が回ったのをバチン!と頬を叩いて戻すと、仰天は加速して驚愕変わり、その場を恐れおののいてリビング中をグルグル走り回った後、開いた玄関のドアからギャーーーーー!と叫び声をあげて逃げて行った。
赤ずきんたちは表に出てその行く末を見守った。
アッサムはとどめの一発というように空に向かって銃声を一発バーン!と響かせてみせた。
逃げて行ったオオカミは途中、アッサムが仕掛けた小さな罠にガシャン!パチン!とはまりながらもその音は遠くに遠くにと、響いて行った。
その光景を二階の窓から子ヤギたちも眺めており、兄弟みんなでお互いの手を合わせたりして喜んだ。
マーサの家の庭に出た赤ずきんとアッサム、それにマーサも同じように喜び、笑いながら、みんなでこの事件の無事解決を祝った。
「さて、もう夜になってしまったねえ。暗くなってしまったから今日は外は諦めて家の中でみんなでシチューを食べましょうかねえ。」
マーサがそう言うと赤ずきんたちは食事の支度を手伝うため、マーサと一旦家に戻ろうとした。その時。
オオオーーーーーーーン!!
どこからか大きな遠吠えが聞こえた。
そこにいたみんなが一斉に振り返るとそれは向こうの森のそのまた遠くにある、岩崖の上に見えたシルエットだった。
暗くなった夜空に煌々と輝く月。
その月が雲間から見えた時、そのシルエットは照らされ姿がはっきりとした。
遠くからでもわかるその銀色の毛並み。
大きな耳。
それはこの森では見たことのない、見慣れないオオカミだった。
目にした一同、みんながその姿を見据えて、言葉を発さなかった。
そしてその静寂の中、その銀色のオオカミはサッと姿を消しどこかへ見えなくなって行った。
アッサム「ハハッ…ハハハ。まあ…いいさ。あんなに罠を仕掛けてたのに、かかるのは茶色毛のあのオオカミだった。あの…銀色のオオカミはこの辺にいたのに一つにも掛からなかった。賢いんだな、きっと。」
赤ずきん「もしかして今のって。」
アッサム「わからない、ハクギンオオカミかは。でももういいさ、今日は諦めるよ。毛皮を馬車に使うのもさ。きっと豪華な馬車になると思ったけど、まだわからないし、王室が使うのかも。」
赤ずきん「残念ね。こんなに遅くなったら狩りは難しいものね。」
アッサム「また、機会があったら探すさあ。仕事が忙しいからしばらくないとは思うけどね。でも、今日は子ヤギくんの兄弟も助けたし、いい一日だったよ。赤ずきんちゃんのハンカチも拾って届けたし、ね。」
アッサムはおどけて、赤ずきんにウインクしてみせた。
赤ずきんは届けてもらったハンカチで自分の魔法杖を拭き、磨きながらウインクし返した。
そして、二人はまた一緒にクスクス、と笑い合った。
平和に星がまたたく空の下で。