xii. おばあさんの家
―「よしっ。」
カチャッカチャッ。
「これが罠なのね。」
赤ずきんが膝に手をついて、中腰で罠を仕掛ける作業を見ている。
「これで最後だ。ここまで十個仕掛けたけどちゃんと掛かるかなあ。」
さっきはプロなんて、言っちゃったけど…まあ、猟のプロの親父と一緒に狩りもしてたし…子ヤギくんのためだから。
掛かるといいな、ちゃんとプロが仕掛けたみたいに。
アッサムには内緒ですけどちゃんと掛かりますよ、大物が!フフフッ
…と失礼。
赤ずきんと子ヤギ、そして合流したアッサムは罠を仕掛けながらお婆さんの家に向かっていた。
その罠はハクギンオオカミを獲るためのものだったが今は茶色毛のあのオオカミへと目的が変わっていた。
「どれか一つでも掛かって足止めになるといいけど。」
アッサムはまたペンダントをぎゅっと握りしめ天にお願いした。
「さあ、罠はもう仕掛け終わったからおばあさんの家へと急ごうか。」
アッサムが赤ずきんと子ヤギに道中の続きをと、促すと皆歩き始めその場から離れた。
「ほら、もう直ぐよ。あ。煙が、煙突の煙が見えるわ。ほらあそこ。もう春だけど午後になるとまだ少し寒いものね、暖炉をつけているみたい。」
赤ずきんが一本の煙の筋を指差すと子ヤギはまた笑顔になった。
一刻も早く兄弟を助けないといけないからして、最初は焦っていたが、今はお婆さんの家にちゃんと早く辿り着くという目的を果たすため足取りをしっかりと一歩ずつ踏み出して子ヤギなりの責任をまっとうしようとしている。
「焦ってもしょうがないから。今はちゃんとおばあさんの家に着かないと。」
そう言うと子ヤギはあの一本の煙の筋を目標に変え突き進んでいった。
そのたくましくなった姿に赤ずきんとアッサムもついて行った。
時折木々と木々の隙間から真っ白な壁に珊瑚色の屋根のマーサの家が見えた。
それが歩くたび近づいていった。
その度に一行の気持ちは明るくなっていった。
外は三時を過ぎて少し太陽が傾き始めていた。
木々には鳴く小鳥、草むらからは野うさぎが赤ずきんたちの目の前を横切ったり平和な行き道だった。
それはこれから起こる騒動を予感させることはなく、ごく当たり前に過ぎていった。