xi. マーサはなんでもお見通し・2
―――時刻は午後三時を指していた。
ボーンボーンと木で出来た大きな古時計が鳴るとうとうとしていたオオカミはハッと目を覚ました。
「おや、やっとお目覚めかねえ。あんた、1時間ほど眠ってたよ。起きたくなくなるぐらいのいい夢でも見てたんかね?」
マーサは目を覚ましたばかりで寝足らずの充血したオオカミの目を見ながら冗談ぽく言った。
オオカミは目をごしごしとこすった後ふあ〜あ、と大きあくびをしてドアの外に目をやった。
「おいら、シチューを楽しみにしてたんだ。シチューの具合はそろそろいいのかな。」
マーサの手の込んで作ったシチューを食べるのを切望していたオオカミだが、マーサはその前にと、オオカミに提案をした。
「シチューはね。赤ずきんが来てから食べさせようと思って。みんなで食べたほうがそら美味しいでしょうからね。だから、来るまでの時間を使ってどうだい、あんた家の掃除を手伝ってくれないかい?」
オオカミは一瞬嫌そうな顔をしたが、実は綺麗好きという一面も持ち合わせていたので少し考えた後、ニヤッと笑ってその提案を快諾した。
ニヤッ。
その笑いには清潔感の裏でこんな感情が込められていた。
―しめしめ。シチューもすぐにたらふく食べたいが、掃除のふりをして、家の中を物色して金品を盗むのにも丁度いい。絶好の機会だ!よーし、身体のあちこちをたるませてポケットを作ろう。そしてそこに隠す。グヘヘへ。
「なんだい?お掃除が好きなの、そんなに嬉しそうにして。」
オオカミはマーサの言葉を聞いて、婆さんは勘違いしているぞ!何も気付かれてないぞ!と嬉しくて足をバタバタさせた。
「そうかい、あんたも掃除が好きなんだね、じゃあ頼むよ。私は一階を綺麗にするからあんたは二階をお願いね。」
マーサに二階の掃除を任されたオオカミはその軽い足取りでステップを踏みながら二階へと繋がる階段を上って行った。
二階には二部屋があり、階段を上がると短い廊下を挟んで両側にひとつ、ふたつ、と部屋のドアが立っていた。
オオカミはどちらの部屋に“いい”お宝があるのか選んでいた。
人指し指を舐め、立てていい風を確認する仕草で右のドアを選んだ。
「うん、こっちからいい金の風が吹いているぞ?」
そういうと、もう迷いなく右のドアを開けて、ズカズカと部屋に入って行った。
「おやあ?なんだここは。変なものがいっぱいあるぞ?それに床、なんだこのへんてこりんな時計みたいな丸い円は。真ん中に変な五つのカドを持った絵が描いてある。変なの。おいら、たくさん泥棒に入っているけどこんなの見たことないや。」
オオカミはこのおかしな部屋を一通り見渡した後、金品の物色に入った。
「でも、この部屋にはキラキラ輝くものいっぱいある。これはいい値がつくかもしれない。ほら、これなんかキラキラ光りを放ってる。」
手に取ったものをまじまじと見つめて、その具合を確認したオオカミは自らの皮膚をたるませて作ったポケットにそれを忍ばせた。
そして、その後も物色は続き、厳選してはこれも、そしてあれもというふうに身体のあちこちにいくつもの作ったポケットに入れて盗みを働いていった。
その後ろ背は楽しそうに見えた。