初登校
―高校の入学式当日、俺は遅すぎず、早すぎない時間に学校に着いた。
遅すぎれば教師に目をつけられ、早すぎるとクラスの中でほんの少し話題になるからだ。中学生の時に7時に学校へ着くやつがいたが、早すぎだよねと周りからネタにされていた。
だから目立たない時間に登校するのだ。
昇降口前には❲第12回馬見ヶ崎高等学校入学式❳と書いてある。
俺と同じ新入生達はそこで記念写真とか撮っていた。俺はクールキャラになるとか言う前から写真は嫌いなので、もちろん歩みを止めず下足箱へ向かう。
これはあるあるだが、自分の場所を見つけるのが少し面倒だ。
さあて俺のクラスは…
1-1だった。下足箱から廊下に出てすぐホールがある。そこに一学年各クラスの名簿がある。
階段を登ってすぐなので位置的には悪くない。
入学式で大した物は持ってこないため、カバンは軽く歩くのもラクだった。
ドアを開ける。
そこそこ人は集まっていた。だが、話をしているのは同中とかそんな感じだろう…。ほとんどの人が辺りをキョロキョロと見ている。
学校が変わって初めてのクラスはそんなもんだろ。
俺は自分の席に座り、筆記用具とファイル(今日の持ち物)を机の引き出しに入れた。
俺の席は真ん中の列の真ん中だ。
これは非常にマズイ事態だ。全方位からプレッシャーをかけられる…。
だが俺の目的は友を作らないのではなく、クールキャラになることだ。
表情はいつも変えずに、淡々とした男になりたい。中学の時できなかった悲願をここで叶えたい。
とやる気に燃えていると、
「初めまして、真室です。今近くの席の人に挨拶してるところなんだけど、これからよろしくね。」
真室とかいう、いかにもモテそうなルックスをしている男がそう言った。
なんだよその目、やめろよ…。かっこいいじゃねぇかと内心思いつつ、
「よろしく」
と返し、これ以上話すのが面倒なので机に突っ伏した。
「あ、アハハハ…」
乾いた笑みをすると、真室はそれっきり話しかけてこなくなった。
俺は無表情を徹底しているので、向こうからは悪印象なのだろう。ほぼシカトしているようなもんだからな。
それから数分後、新クラスの担任が入ってきた。
教卓のところまで歩き、机の上に両手をドンっと置いてクラス中を見回した。
「―今日からこのクラスの担当になった、小国だ。よろしく頼む」
あまり隙の無いタイプの女性だ。年齢は見るからには30代に入るか入らないかぐらいだ。黒髪ロングで後ろに結っている。
髪の結び方とかそういう知識には疎いので何て言ったらいいかわからない。
うるさい先生なんかよりは、こういう感じの方が楽だ。
小国はかなり顔が整ってると思う。上から目線になってしまうがな。
クラス内でもひそひそと話になっている。
「えー、30分後新入生入場だ。会場準備中のため、この階から出るなよ。以上」
と言い椅子の上に腰をおろし、足を組んだ。そして瞑想をしているかのように目を瞑っていた。
さて、この30分間何をしようか…。
ひとまず読書でもしようかと思った俺は、カバンから1冊の本を取り出した。
俺は基本的にラノベ、マンガは大好きだ。
マンガだとすぐ読みおわってしまうため、家で読むことが多い。ラノベは自分の場合早くても2時間半くらいかかるため、こういう待ち時間には最適だと思う。
俺が今日持ってきたラノベは、甘⚫リだ。
内容は伏せておくが、非常に面白い。自分の好きな性格をしているキャラがたくさんでてくるので、読んでいて飽きない。
「―何読んでるの?」
俺の意識は本の中にあったはずが、その一言で本の中から出てきてしまった。
あ、こいつは確か真室だったか…。
「小説みたいなものだ」
俺は本から目線を外さず口だけ動かした。
「見せてよ」
真室は興味深そうにして、いやしてるフリかもしれんがそう言ってきた。
そして俺の手からヒョイと取り上げ、俺が読んでいた所に指を
挟めてからパラパラと捲った。
そしてたまたま、水着シーンのちょっぴり過激なイラストを見てしまったようだ。
「……」
今すぐにでも怒鳴りたかったが、クールキャラなので堪える。あー!頭にきたから、帰りにハーゲン⚫ッツでも買おう。
「白鷹くんこういうの好きなの?」
「拾っただけだ。もう返せ」
俺は真室の手から自分の本を取り返し、カバンにしまった。そして席を立ち、教室から出ることにした。